第77話 「やってみよう! グリーン購入」(2000.11.15)
1.はじめに
グリーン購入ネットワーク(以下、GPN)では、これまで主に大口の購入者(事業者や自治体等)による組織調達に際する環境負荷低減を標榜していたこともあり、いわゆる個人レベルのグリーンコンシューマー、そして一般消費者向けへのグリーン購入の普及啓発は付随的に取り組まざるを得ませんでした。従い、広く一般向けにグリーン購入を伝えるツールやパンフレット等の用意も十分でなかったのですが、GPN会員団体内外からは常々そうした普及啓発媒体の要望を多くいただいており、加えて、グリーン購入の進展に伴い、一般の方向けの対応がGPNとしても重要度を増してきたことを受け、そうしたツール・パンフレットの制作・活用が課題となっていました。しかし、単に一般向けのものを作ったのでは、既存の各種啓発媒体と並存するにとどまるため、GPNとしてはより意義のあるものとして今般、一般消費者の中でも特に小学生(高学年)を対象とし、標題のワークブックを作ることとなったのです。
小さな消費者であるこどもたちが、年少のうちにグリーン購入の視点に出会い、将来、実践する際のきっかけをつかむための導入用ツールとしてもらうことを想定しています。そしてより多くのこどもたちにグリーン購入を実体験してもらうため、グループや学校等での環境教育、社会科(会社)見学、そして何より「総合的な学習の時間」での授業などに本ワークブックを利用してもらえれば、と願っています。
又、このワークブックを通じて、周囲の大人へのグリーン購入の波及や、より多くの流通業者(小売店)が環境配慮型商品の取り扱いを進めてもらうことも視野に入れています。
僭越ながら、本ワークブックの趣旨を記すと、以下のようになります。
・グリーン購入は個人でも身近な買い物(消費行動)を通じて循環型社会形成に参加できる有効な方法です。消費行動は小学生の頃から身につけてゆくことであり、将来を担う小学生が消費行動の際に環境を考慮することを学習していくことは大変重要と考えます。
・小学生自らが、一消費者として店と対話することをねらいとしています。同時に、家族や地域を巻き込んだ展開を期待します。
・小学生が身近に購入している文具や日用品を中心に、購入行動の前後を調べ、考える教材(行動を啓発するワークブック)としました。主にGPN会員団体や環境庁主催の「こどもエコクラブ」を通じて配布します。
・実際に文具店やスーパー等に足を運び、「目や手で確かめる」「店員と話をする」など、実体験的・社会学習的に実施できる内容を想定しています。又、小学生の自主性や創意工夫が引き出せるような配慮を可能な限り施しました。
・メーカーを通じて、流通事業者や小売店を配布することも視野に入れ、現場レベルでのグリーン購入が加速されるよう、そして実際に環境配慮型商品の一層の普及促進につながるような工夫について検討を加える予定です。
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2.企画、編集の経緯
さて、いざ制作しようとなると難しいのは、こどもたちの行動実態をどう把握するか、こどもたちに受け容れてもらえ、かつ実際にアクションに結びつく媒体が作れるか、といった点でした。それらについて、GPN幹事団体の中でグリーン購入を現場で知る担当者(流通、メーカー等)、地域でグリーンコンシューマー運動に関わる環境NPOの方、教育現場で環境問題を教授されている先生、といった方々に集まっていただき、まずは事前検討を行い、おおよその形をつかむことができました。そして話の中でポイントとなったのは、
・ストーリー性を持たせ、ゲーム感覚で取り組める内容にする。
・やってみてよかった、と思える工夫を設ける。
・取り組みをお互いが評価でき、励ましあえる(仲間どうしで刺激し合える)内容にする。
・自分の思いが反映でき、かつ周りからの評価を受けやすいものにする。
といったもので、これらに加えて、概ねの構成や方向性を固めることができ、いよいよ制作に向けた取り組みを始めることとなったのです。
次に事前検討に関わっていただいた方を中心に編集委員会を組み、今年6月から2カ月間の検討を行いました。(主な経緯 参照)
当初の議論では、1)対象:小学校高学年でよいか、2)配布先と活用方法、3)作成部数と予算、4)留意点:スーパー、コンビニ、専門店等、業態を問わず共通で使えるものは作成できるか。/こどもの潜在能力やこどものレベルをどうとらえるか(ガイダンス充実 OR 自己研究重視)等、5)構成及びワークブックの体裁等、をまず検討しました。
その後の計5回の編集委員会での議論中、特筆できることを列挙するなら、
・記入事項が多いと、取り組みにくい面があるので、基礎知識的なものも盛り込むようにする。
・ワークブックスタイルとするが、グリーン購入に関するガイダンスも充実させる。
・こども一人でも行動できるよう、様々な情報・ガイダンスを載せる一方、こども自らが調べて、気付く・発見するような展開の中で、ガイダンスを示すような方向で考える。
・様々な形態のお店で買い物することを考え、スーパーや文具店等で共通して使えるものを作る。
・こどもへの返事やフィードバックは欠かせない。社会や市場を動かしていることをこどもが実感できる工夫を持たせる。
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といったところでしょうか。
そして、次のような議論も交わされ、ワークブックのコンセプトなどが明確になっていきました。
・学校指定のものが多く、こどもの自由裁量で買えるものは限られているので、買い物の対象を明確にする必要がある。
・PETボトルがワイシャツに生まれ変わるなど、リサイクルに協力することによって、元の材料が全く違う商品になることを紹介すると、こどもには受け容れてもらいやすい。
・グリーン購入の意義を伝える場合、リサイクルや再生素材の観点だけでなく、交換や補充が可能といった長期使用について、パッケージが簡素なものや本体が軽いものといった省資源について、も盛り込んではどうか。
・こどもが買う文具はキャラクターものが中心。メーカーとしても法人需要対応が多く、こども向けの環境配慮型文具の開発は進んでいないのが実状。
・大人(店員)の態度が良くないとこどもを傷つけてしまうおそれがある。店側にとって守ってもらいたいマナーについては知らせる必要がある。
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途中、大手スーパーが独自で発行している「お店探検」型のこども向け教材や、東京都が発行している「(グリコン・シューマーの)子ども買い物ナビゲーター」、西宮市こども環境活動支援協会での取り組み等を参考にしつつ、やはりこどもの自主性を尊重し、自分から行動を起こせる工夫を盛り込むのを優先する、というワークブックの本旨が固まったものと思います。
ワークブック形式という趣旨をふまえ、筆者自宅の近所、東京都北区の赤羽地区にある小学校にて、6年生23名を対象に、実際に記入式になっている部分について試行・検証してもらいました。その結果わかったことは、概ね以下の通りです。
・自分がふだん使っているものをいろいろ調べるのは、楽しそう。
・しかし実際に足りないものを買いに行くのは面倒。文具や日用品は意外と買い物に行かない。
・買い物に行く先を順位付けすると、
専門店 > スーパー > コンビニ > 100円ショップ 他
・よく買うものは(1000円以内で自由に使える場合)...
カード、プラモデル、マンガ・雑誌、中古CD、アクセサリーなど
文具でよく買うものは、ノート、鉛筆、シャープペンシル、消しゴムなど
・選ぶポイントは、やはりデザインやキャラクターを重視。しかしながら、機能もわりと重視している(丈夫な筆記具、きれいに消せる消しゴムなど)。価格はその次。環境配慮しているかどうかはあまり関心ない(あとで気が付く)。
・男子より女子の方がお店に足を運ぶ。
・お店に行くと、隅々までちゃんとお店を見ている(温度、照度、店員の態度、客の入り方など)。
・書きやすさや書く楽しさがあればしっかり書いてくれる。
・つぶさに調べてもらった分は、実際のエコ文具等の価格・素材・売られ方など実態把握に十分役立つものだった。 |
加えて、冒頭に記した通り、GPN会員各位からのニーズが高く、日頃から一般消費者、こども向けの取り組みを考えていらっしゃる方が多いこともあったので、ワークブックの大枠が固まったところで、GPN全会員に対して意見を伺うことにしました。多くの反響・意見を受けましたが、何よりワークブック制作に共同で参加することで、会員としてのインセンティブ向上につながったとしたら本望です。
いただいた意見・提案をもとに、編集委員会で検討及び変更した主な点は、以下の通りです。
・文字の大きさ、色や枠等のデザインを工夫し、読みやすくし、言葉遣いと読みがなについても、対象学年に合わせて統一。
・「環境負荷」という言葉を、別の表現で置き換えた他、「地球環境」「地球にやさしい・思いやりある」といった言葉の使い方についても誤解を与えない表現に。
・グリーン購入について、冒頭で説明を追加。
・広く環境問題を扱うのではなく、購入=買い物(入口の部分)に焦点を当てることを優先。
・ものを「買う・選ぶ」行為に比重を置きつつ、「ものを大事に扱う」そして「買う前に考える」といった点も強調。
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(参考T):主な経緯
6月 |
・第1回編集委員会(素案及びスケジュールの確認、基本的な仕様の決定等)
・第2回編集委員会(制作会社の決定、レイアウト・展開の概要検討) |
7月上〜
中旬 |
・第3回編集委員会(レイアウト・展開の詳細検討)
・GPN会員に対して一斉に意見募集開始
・第4回編集委員会(レイアウト・展開の確定) |
7月中〜
下旬 |
・東京都北区立北園小にてワークブック記入部分を試行・検証
・GPN会員からの意見〆切
・第5回編集委員会(最終的なチェック等)
・版下制作・印刷開始(初版10万部) |
8月末 |
・ワークブック完成・納品
・「こどもエコクラブニュース」9月号に同封・発送開始 |
9月上〜
中旬 |
・GPNニュース9月号にサンプルを同封し、申込受付を開始
・マスコミへの案内・配布開始 |
9月下旬〜 |
・小学生からのハガキによる返事の受付を開始 |
11月〜 |
・ハガキの返信状況等をとりまとめ、「こどもエコクラブニュース」に提供(1月号に掲載予定)
・プレゼントの発送開始 |
3.完成、配布
2カ月に及ぶ編集委員会での討議、GPN会員からの提案・要望、GPN幹事会での補足意見等をふまえ、小学生向けワークブック「やってみよう! グリーン購入」が以下のような形で完成しました。
・タイトル:『やってみよう! グリーン購入』
・形式:教材を兼ねたワークブック(記入形式)
・対象:小学校 中〜高学年(主な対象は5年生)
・本体仕様:A5判、16ページ、フルカラー、中綴じ |
《買う前に》
¶おうちで調べよう ¶買いすぎていないかな? ¶環境を考えたものって?
《お店へ行く》
¶お店でこんなものを見つけた! ¶お店の人にきいてみよう
《ステップアップ》
¶環境を考えたオリジナル商品をかこう ¶グリーン購入マップを作ろう ¶グリーン購入まとめのコーナー(GPNへの返信ハガキ付き)
*3部構成でストーリー性を持たせ、自分たちのできる範囲でじっくり取り組めるようになっています。内容詳細は現品にてお確かめいただければ幸いです。 |
繰り返しになりますが、消費行動は、こどものうちから身につけていくことであり、自分たちの日常の「買う」という行動と「環境配慮」の視点とを結びつけたグリーン購入は、持続可能な社会の担い手である子どもたちに是非学んでもらいたい、大切な消費スタイルと言えます。
本ワークブックの内容は、まず自分の現在の持ち物に関心を持つことに始まり、環境配慮のポイントを参考にしながら、実際に店頭で商品を見つけるという、実際の行動を促す構成になっています。インタビューを取り入れた他、さらにステップアップした活動ができるよう自由研究のコーナーを設けてあります。そして最後のまとめコーナーでは、ワークブックを通じた感想や抱負を書いてもらい、実際に足を運んだお店の記録をとってもらった後、自分でハガキを投函するという仕掛けを付けました。
今年9月から、実際にこどもたちの手に届くよう、環境庁の「こどもエコクラブ」(小中学生が自主的に活動している環境クラブ)を通じた配布を始めた一方、GPNの会員である行政(自治体)、企業、民間団体(NPO等)にも配り、グリーン購入の普及啓発活動の一助として活用してもらっています。すでに初版10万部の配布は完了し、増刷分の注文もかなりの数に上り、手応えある展開になっています。特に流通業者を通じた系列店舗への配布によって、お店側の理解が広がっていることも心強いところです。
こどもたちからのハガキによる返信も寄せられ始め、時にはすばらしいコメントがあって、GPN一同、励まされ、かつ感激しています。ハガキには、小学生が調べた先のお店の協力で、店名・店員名が併記してある場合、お店にGPNの資料や環境データブックを送ることとしており、店側のグリーン購入への関心を高めてもらえるようにしてあります。もちろんハガキを送ってくれた小学生には、持て余さない範囲で、環境配慮型の商品をプレゼントすることにしてあります。
4.今後の見通しなど
前述の通り、当初の配布予定であるこどもエコクラブ会員、そしてGPN会員へもひととおりの配布を終えたので、あとはより裾野を広げるべく、以下の経路が全て満たせるような配布計画を検討しています。
(参考U):小学生の手元に届くまでの経路(想定)*こどもエコクラブ除く
GPN → 自治体 → 学校、教育委員会
→ 児童館、図書館
→ イベント等を通じて
→ 環境教育団体 → 学校、学習塾
→ イベント等を通じて
→ 消費者団体・消費者センター → 学校、学習塾
→ イベント等を通じて
→ 青年会議所 → イベント等を通じて
→ その他のNGO・NPO |
さらに、単にこどもたちの手元に届けるばかりでなく、グリーン購入について理解を深めてもらいつつ、ワークブックを実践してもらうため、GPN会員で有志を募り、希望する小学校へ講師派遣できないか、検討する予定です。会員企業に賛同していただいた場合、その企業にとって社会貢献の一つの形になるものと思われます。環境への取り組み・試みとしてもきっとプラスになるでしょう。
さて、ひとまず完成はしましたが、いくつか課題もあります。例えば、1)ワークブックにこどもたちが実際どんな記入をしているのか具体的な経緯がつかめない(ハガキで感想のみ把握できる)、2)こどもの取り組みを相互に評価し合える仕組みがない、3)授業で一斉にワークブックに取り組むと、一人一人がじっくり向き合えなくなってしまう、などです。版を重ねるごとにこうした課題をクリアしていくよう努めたいと思います。
こども向けの環境教育用教材はいっそう充実してきています。しかし、いわゆる自然学習、野外学習、公害防止教育に資するもの、あるいは環境問題を概論的に取り上げたものが多く、生活や日常の買い物の視点で環境を考えていくものについてはまだ途上と思われます。生活から考えていく環境教育(この場合、共育:家人や先生も生活者という点では、こどもと同じですから、お互いに学びあう姿勢がほしいものです)に役立ていただく教材の一つとしてもらえるなら、ありがたい限りです。そして、当のこどもたちが大きくなって買い物に行った時、「そう言えば昔、ワークブック片手にお店に行ったっけ」といった記憶が少しでも残ったとしたなら、それは大きな成果と言えるのではないかと思います。
5.ワークブックの申込方法、グリーン購入ネットワーク(GPN)について
グリーン購入ネットワーク(GPN)は、わが国におけるグリーン購入の取り組みを促進するために、平成8年2月に設立された企業・行政・消費者による緩やかなネットワーク組織です。GPNでは、全国各地でグリーン購入の普及啓発に努めるとともに、ガイドラインの策定、「商品選択のための環境データブック」の発行などを行っています。平成12年11月時点での会員は、約2300団体(企業75%,行政15%,民間団体10%)。
ネットワークでは幅広くグリーン購入の普及啓発を行うとともに、優れた取組事例の表彰・紹介、購入ガイドラインの策定、環境に配慮した商品情報をまとめたデータベースづくりとデータブックの発行、国内外における調査研究活動、地域ネットワークの立ち上げなどを通じて、消費者・企業・行政におけるグリーン購入を促進しています。
グリーン購入ネットワーク(GPN)事務局
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