第10話 沖縄モノローグ('98. 2. 1)
出張扱いで、沖縄へ行く機会を得た。1/23、羽田を8:45に発ち、正午には空港から市の中心部へ向うバスに乗っていた。チェックインするとすぐ、那覇市西3丁目にある沖縄女性センターへと徒歩で向う。電子情報通信学会の一研究会での論文発表のためだ。午後の部の最初、今回の会では招待講演ということで、琉球大工学部の先生による「21世紀、沖縄の雇用中枢はマルチメディア産業か」と題する話を拝聴することができた。沖縄県の様々な実状を交えた産業論で、大変興味深いものだった。内容を小見出し風に書き出すと、ざっと以下の通りである。
1.県の実状
・沖縄県現在人口は130万人だが、2025年までに14%増見込み
・沖縄の国庫財政は約1兆円
・基地の他に資源がない県土
・第3次産業比率は80%と高率(全国平均は66%)
・1国2制度に対して中央官僚は冷ややか
・自由貿易地域構想は下降気味だが、県の自助努力不足とは言いきれない
・100の指標中 全国1位は23、ワースト1位は34
2.沖縄振興策と今後
・振興策向けの特別調整費は50億円
・脱基地経済をどうするか、沖縄にできるのは情報通信産業しかない
・政府の規制緩和が必要、返還前は規制が緩やかだった
・24時間稼働する国際都市構想と東アジアの国際ハブ化
・行革と沖縄政策協議会の矛盾、予算削減か拡大か
・琉球大学は新たに理学部を設置、マングローブや珊瑚礁を研究予定
・優遇税制(法人税35%控除、雇用者数最低50人)の推進が求められる
・マルチメディア産業の即雇用性に期待
・地理情報システムのモデル地区構想(沖縄、北谷、浦添、宜野湾)
・沖縄の基地問題は曇りのち雨か?
・普天間基地移転も凍結?
学会での講演にしてはいい意味で異色な内容で、すっかり聞き入ってしまった。今回の研究会は、沖縄での情報産業の未来を語り合う目的もあったようで、結構なことだと思った。
が、しかしこの講演は決して研究会を意識したものではなく、先生は日常考えておられることを口述したに過ぎなかった、とわかったのは次のような出来事ゆえである。つまり、沖縄県民の方々には、その県土・県史の特異性から、独特の郷土意識、連帯意識のようなものがあって、誰もが当たり前のように県のことを案じているのである。
本州日本海側、中国・九州地方を雪で覆った寒気団、それと冬型崩れの長い前線の影響で、沖縄は変則的な気候に見舞われた。曇天なのだが、時折強い風と雨が襲う。そんな週末を定期観光バスで過ごすことにした。安里を出て、ルート58を北上、浦添~宜野湾~嘉手納~読谷~琉球村~恩納海岸~万座毛~許田~名護と走る。景観を楽しみながら、バスガイドの話を聞いている。すると、「いや待てよ、これはただの観光ではない」とハッとさせられるフレーズが出てくるのである。基地の間を走る訳だから、基地の説明は言うまでもないが、例えば普天間を通る時、ここは危険が高いこと、住民が騒音に絶えず悩まされていること、がまず紹介される。沖縄海岸国定公園を左に見ながら、右手山腹のゴルフ場の開発で赤土の流失が問題になっていることが語られる。名護市役所を見ながら、あの建物は冷暖房を最小限に抑え、自然の風をふんだんに取り入れる構造になっている、なんて話まで。さすがに読谷村が1993年の環境自治体会議の開催地だ、なんて話までは出なかったが、基地問題や環境問題に対する意識の高さを端々にうかがうことができた。
名護から先は、海沿いに本部町に進み、かつて国際海洋博が開かれた国営公園まで。帰りは、海沿いではなく、八重岳の道を緋寒桜を拝みながらの乗車である。名護~許田までは往路と同じ。許田からは、沖縄自動車道を通って、沖縄市の北口まで進む。沖縄市がかつてコザと呼ばれていた話、そして日本に返還される前、コザでは白人・黒人の兵士間で縄張り争いがあった話などを聞く。何とも信じ難いエピソードである。
ホテルに戻ってから、地元紙に目を通す。県民アンケートの結果が載っていた。「あなたは日本人か、それとも沖縄人か?」、対する回答、「沖縄人」...実に80%とある。他にも基地問題や環境問題に対する関心度の高さを示す数字と、そうした問題を自分のことのように語るコメントの数々。沖縄県の歴史や風土については、観光バスツアーの翌日、1/25に出かけた首里城公園内の展示室でじっくり見学したが、やはり本土とは趣を全く異にする。アジアの海洋貿易の拠点として栄えた時代、周辺国から様々な文化を受け華やいだ時代に思いを馳せながら、県民の方々の沖縄人としての誇りと風格の高さの理由を感じ入るのであった。
さて、東京に暮らす人たちには、東京人という郷土意識、連帯意識は果たしてどの程度あるだろうか、とふと思う。
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