第20話 散髪 10分間('98. 7. 1)

 ☆おかげさまで20話まで来ました。引き続きご愛読いただければ幸いです。

 髪を切る。男の場合は洗髪して顔剃りして、最後にセットもしてもらうから、髪を切るだけにとどまらない。店によっては総合調髪などと言う所以である。筆者は髪を整えることに関しては無精な方なので、一度切りに行くと、できるだけバッサリ切ってもらって、2~3カ月後に又行くといった具合だから、下手をすると年に4回程度しか行かないこともある。さて、一度その調髪に行くと、待ち時間を除く正味時間で、40分~1時間は優にかかってしまうので、時間を要することもさることながら、加えて何が困るかと言えば、やはり店員との会話やかけあいだろう。ずっと黙っているのも変だし、かと言って、根も葉もないことを話すのもどうかと思うし... 店員からいろいろ話してくれればまだいいが、そうすると今度は、話しながら鋏を入れたり、髪を梳いたりするのは、手元が狂ったりするんじゃないかと、こっちが要らぬ心配をしてしまう。そんな訳で会話に集中できなくなってしまうのは、筆者くらいなものだろうか。

 そんな調髪の悩みを解決してくれる店があることがわかったのは、築地、東銀座界隈を出歩いていた折りのこと。ふと目にしたヘアカット専門店は、10分間、1,000円とある。純粋に髪を切るだけで、洗髪・顔剃りなし、ということだ。その時は、切ってから間もないことだったので入らなかったが、次回はぜひこの店に、と思ったものである。

 縁はつながるもので、別の機会に新橋から虎ノ門方面へ行く途中で、西銀座で見たと同じ、このヘアカット専門店に出くわした。東銀座よりは駅からのアクセスが良かったので、いよいよ気分が乗ってくる。よし、次はここにしよう!と心に決めた。それから実際にこの店に入るまで、そんなに月日を経なかったのは、これまでは髪をちゃんと切りたいという思いが、店員との会話はどうも苦手、という気持ちに負けていたから、のようである。

 店は2Fなので、狭い階段を上がっていくと途中、切った髪の固まりが落ちていた。「?」と思いつつも、とにかく入る。「こんにちは」という挨拶で迎えられ、店員の印象は頗る好い。なにわ弁風の店長らしき人に、券売機を案内され、千円札のみ受付可(両替には使えないというのがポイント)の挿入口にお札を入れ、カードと引き換える。このカード、どういう意味があるのかと思ったら、待ち順番を整理するのが主目的らしい。価格体系が1,000円しかないからできることでもあるが、先払い式で会計がスムーズになるなら、客としてもありがたい。

 空いていたので、すぐに通された。扉大の全面鏡を開けると、案の定、扉になっていて、客の荷物を収めることができるようになっている。待ち合いソファの傍らにあるような単純なロッカーでは、散髪してもらっている間、荷物に目が届かないので少々不安になるが、自分が向っている鏡の後ろに荷物があるなら、心配無用である。まずは気に入った。切る長さを聞かれるところは基本だから当然としても、その後は時間が限られているから、特に口をきく必要がない。実に気が楽である。霧吹きの後、鋏を入れて、とここまで5分かかっていない。これはいいと思っていたら、おっとバリカンが出てきた。耳の周りやもみ上げの部分は、ふつうの店では鋏仕事だったが、ここでは電動作業。耳のあたりでガーとやるもんだから、結構たまらない。静音設計のバリカンがあればまだ救われるのだが... ともかく髪を切る作業自体はあっと言う間の出来事で、ありがたかった。切る人と整える人では分担が分かれる。7分経ったところで、仕上げ専門の店員が現れて、どうなることやと思いきや、今度は掃除機のノズル状のものを取り出して、再び「ガー」が始まった。洗髪がない、つまり髪の切屑を流すということがないから、こうなる訳である。耳のあたりでこれをやられると何ともたまらない。やはり10分間散髪にも良し悪しがありそうである。鏡の上のことわり書きに、「自然な仕上げをめざす」とあるのを見てつい納得してしまった。ひととおり終わってよく見ると、10分以内で仕上がらない散髪はしない、という意味も改めて理解できた。今までみたいにバッサリでは、時間オーバーになってしまう。10分散髪でだいたい1カ月前程度の長さになったというところだろう。それでも変に気を遣う必要がないし、何より早いというのはやはり助かる。洗髪は自分で、せっけんシャンプーなんかを使ってしたいし、ヒゲは生えない方だから顔剃りも特に要らない。経費も節減できる訳だから、言うこと無しである。仕上げで使ったクシはプレゼントしてくれた。次回、持って行けばリサイクルになるし、常連ヅラできていいや、などと思いながら店を後にした。筆者同様、店員との会話に困っている人が多ければ、この手の店は流行りそうである。(時間と費用を重視する客の方が多いだろうけど) 客が理髪店に求めるQCDや満足度を測るのは難しいところだが、これは一つの解だと思う。

 そういや髪の切屑、ブラシで落としたっけ? 店の入口で髪の固まりが落ちていた理由がわかった。

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