第22話 「He is Back」('98. 8. 1)
1993年1月、武道館でのコンサートで自身の音楽活動の凍結を宣言した角松敏生。ここ5年半の間、VOCALANDやAGHARTAのプロデュース、長万部太郎の名での「WAになって踊ろう」のヒットメイキング、と活動は続けながらも、その宣言通り、本人の名を表に出すことはなかった。「角松敏生」の名を目にしなくなって久しかった訳だが、昨年あたりからデュエットソングなどで出始め、活動再開の兆しを何となく感じてはいた。しかし、まさかこんな急ピッチで、コンサートツアーが始まるとは。解凍とでも言おうか、思いがけず早い活動再開だったが、ファン歴14年の筆者にとっては実に喜ばしい話である。
東京都内外の数あるコンサートホールはだいたい体験してきたものの、大宮ソニックシティホールは今回が初めてだったので、好都合だった。とにかく出かけてみるまでは、コンサートツアーのタイトルが「He Is Back」と言うことも知らなかったので、「He Is Back」と掲げてあるのを見た時には余計胸躍った。
会社帰りで直行となると、開演時間に間に合わせるにはさすがにタイトである。多少の遅れを見越して、何とか18:45にホール内に入ったら、ちょうど幕が上がるタイミングだった。何やらステージ後方で聞き覚えのあるフレーズが...「Love is you, Love is me, Love is neighbor, Love is everything...」おやおやオープニング早々、「No End Summer」のエンディングとは。その歌う様は、山下達郎が「RIDE ON TIME」をライブでやる時のお決まりである「雄叫び」然としていて、なかなか憎い演出である。
さて、一曲一曲文章で書き綴っていくとややこしいので、まずリストアップする。時間はおおよそのものである。(太字は特に良かった曲)
18:45
| No End Summer(Reprise)
18:47
| Lucky Lady Feel So Good
18:52
| 飴色の街
18:58
| Melody For You
19:03
(MC)
19:09
| Desire
19:17
| Distance
19:25
(MC)
19:29
| alright(新曲)
19:34
19:35
| 何もない夜(新曲)
19:40
| (小林信吾ピアノソロ)
19:43
| 角松DJコーナー(ターンテーブル+エレキドラム)
19:49
| ALL IS VANITY
19:56
(MC)
19:58
| Realize
20:03
| OKINAWA
20:07
| Remember You
20:11
| Never Touch Again
20:16
| After 5 Clash
20:23
| 初恋
20:29
| もう一度...and then
20:38
(Encore)
20:45
| Girl in the Box
20:52
(MC)
20:56
| Take You To The Sky High
21:01
21:02
| No End Summer
21:09
(More Encore)(MC)
21:18
| 崩壊の前日
21:29
「Lucky Lady Feel So Good」から当然の如く、総立ち状態になる。それはいいのだけれど、一階の左側後方の席だったせいか、ステージ向って左のエレキベース音がやけに耳に付く。その一方、ドラムスが効いてないものだから、角松ならではのビートの刻みが伝わってこなくて、本人も歌いにくそうだった。「飴色の街」はコンピュータシーケンスの小気味いいリズムが売り物なのだが、これまた活きてない。音量は十分過ぎるくらいなので圧巻なのだが、ちょっと肩透かしを食った感じだった。次の「Melody For You」は、1984年のアルバム「Gold Digger」に収められているもので、リゾート感・ドライブ感を堪能できる佳品である。この曲が聴けるとは思っていなかったから、嬉しかった。ただ角松自身、まだ歌に乗りきれていない感じだったのと、サックスが出過ぎていたのが残念だった。
最初のMCでは、5年ぶりのステージということもあって、5年間どういう思いで過ごしたか、そして時間について思いを巡らした結果、時間の感覚は結局は精神面が左右することに思い到った、なんていう話になった。同じ時間が経つのでも、楽しい時は早く、苦しい時は遅く感じるものだと言う。とにかく5年という歳月を経て、成長して、わだかまりが解けたのだろう。旧作に対する思い入れを持てるようになったと語りが続き、そうした時間に対する思いを歌う意味で、バラードを2曲と相成った。
こっちも旧作から耳が遠のいていたこともあって、「Distance」の方はタイトルがなかなか出てこなかった。本人としても時間が作るブランクを感じながらのステージだったに違いない。それ故、出だしからしっくり来ない面があったのだと思う。
バラード後は、「ここからコンサート中盤」とのおふれ。それは早いとクレームが飛ぶ中、アルバム発売に合わせたコンサートツアーを組んでいたところ、何たるや鉄砲水?の仕業で曲が台無しになり、CDシングル1枚のみを引っさげてのコンサートになったと言う。CDという形で世に出るのはお流れになってしまったが、ストックしていた2曲の新曲で始まり、お家芸のターンテーブルを使ったスクラッチが飛び出すなど、中盤はエンターティメント性たっぷりで盛り上がりを見せた。ターンテーブルとエレキドラムと来れば、そのままメドレーで「Tokyo Tower」に行くしかなかろうと思いきや、ここは大宮。「Tokyo Tower」とは行かず、「ALL IS VANITY」へと曲を変えたのには意表をつかれた。ここまで来て、だいぶ肩の力も抜けたらしく、いよいよ終盤。40分通しで、一気にたたみかけて「ダンスの角松」の面目躍如といった態だった。上記リストで太字で記したが、「After 5 Clash」と「もう一度...and then」は原曲よりもビートの密度が濃いせいもあり、聴き応えがあり、特に良かった。聴く人によっては懐かしさを感じる終盤のラインアップだったのではないかと思う。角松がやや老け顔になったのは遠目から見てもわかったが、この終盤は昔のエネルギッシュな姿がダブるようなそんな印象を受けた。「やき直しと言われようと、とにかくストレートに演奏したい」、終盤前のMCで語っていた言葉につくづく納得してしまった。
アンコール後、姿を見せた角松は、開演から同じ赤のスーツ上下。普通なら衣装替えするはずなのに、と思っていると、何でも今日7/24は赤の日で、昨日7/23の神奈川県民ホールは青の日。つまり、テーマ色を設けて、赤と青で演目を変えているのだと言う。衣装を変えない訳である。角松関係のホームページをいくつかのぞいてみると、7/23の演奏曲は確かに違っている。段取りの覚えが悪くなったと言っていたが、無理もないことだと思う。譜面らしきものを繰っていたのもようやく合点が行った。
「Girl in the Box」は歌い出しでトチったのが脱線の始まり。奏者全員ステージ狭しと走り回るは飛び跳ねるはの盛り上がり大会となり、お次の「Take You To The Sky High」では客席からステージめがけて紙ヒコーキが怒涛の如く飛ぶは舞うはで、全くお祭り騒ぎなのだが、実はこの2曲でのこのシーンは昔からのものなので、5年経っても変わらず再現されたということが実に意義深く、感動的なのである。本人も紙ヒコーキの膨大な量に圧倒されながらも、再び観客と同じ時間が共有できる、即ちステージに立てる、という手応えをつかんだようで、何となく感涙していたのがわかった。ラストの「崩壊の前日」は、震災に見舞われた親友を訪ね、神戸に行った時に感じたことを歌にしたもの。震災直後の神戸は、復興に向けた確かな目的意識があり、見た目には惨澹たるものの、逆に町自体は生き生きしていたことに感銘を覚えたと言う。そんなこともあって、「みんな生きているんだ、明日はまた来るんだ」という実感を得て、活動再開となったと語っていたのが胸に残った。
「He Is Back」の題幕が降り、客席が明るくなると、紙ヒコーキの散らかりようがやたら目に付く。拾って帰ろうかと思ったら、「片付けのため客席から退出ください、アンケートを書く場合もロビーでお願い...」とのアナウンス。紙ヒコーキの紙はリサイクルに回されるんだろうか、などとコンサートの余韻もどこへやら、要らぬ心配をしながらもひとまず退場した。
ともかく活動再開を祝うと同時に、これからも引き続き声援を送ろうと思います。(しかしフルアルバムはいつ出るのだろう?)
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