第24話 ハンズメッセ'98('98. 9. 1)

 東急ハンズ都心型1号店としての渋谷店が開店して、9月でちょうど20年になるという。都内では、渋谷の他、池袋、新宿、二子玉川園、町田にあるが、筆者の身の回りにあるちょっとしたお役立ちグッズは、だいたいそれらのどこかの店で仕入れたものが多い。東京に戻ってきて10年余りが経ったが、その間それだけお世話になっている訳である。一利用者のこうした状況からして、一般的にはこの20年という歳月の間に東急ハンズが得てきた存在価値や果たしてきた役割は決して小さくないと思う。

 多少小遣いの額がアップした高校時代、大阪で暮らしていた筆者は、とある日、朝刊に入っていた「東急ハンズ江坂店」の四つ折りの特大広告を見て、すっかり魅せられてしまったのを思い出す。家族のリクエストを無理やり聞き出し、口実を作って、ためていた小遣い1万円ほど持ち出して、東急ハンズに乗り込んでいった。13年ほど前の話である。これまでお店の人が使うような専門の道具の数々が自分の手に取れる上、それが買えてしまうのだから、えらく胸躍ったものだ。(蛇足ながら、その時買った品で傑作だったのは、20面体サイコロだろう。自作の長篇双六ゲームでずいぶん重宝したものだ。) さらに、「自分の手を使って、あらゆる素材を操る、そんな「手の復権」を全ての人に開放する」、要するにコンセプトを提示するのが商売、という店があるのを知った時は、買い物の満足感に加えて、精神的にも充実でき、ハンズ初体験日は実にいい一日だった。

 さて、東京に戻ってから初のハンズ体験は町田店だったが、毎年8月の末頃、全店挙げて開催される「ハンズメッセ」に出くわしたのも町田店が最初だった。町田店はハンズの中では大きい方なので、扱う品数も多い。一般商店ではなかなか手にできない物がセール価格で並んでしまうのだからこれは二重の喜びである。(何を隠そう、先述した筆者身の回りのハンズ購入品の多くは、このメッセで手に入れたものが大多数である!) 加えて、レシート合計3,000円で1回、ハンズオリジナルグッズのクジが引けてしまうというおまけまで付いているのだから、冥利につきる。忘れもしないこの時のハンズメッセでは、自分で買った分では3,000円に満たなかったものの、検印のない高額レシートを恵んでもらって、3回抽選させてもらい、C賞(時計)・D賞(ミニドライバーセット)・参加賞のそろい踏みという幸運をつかんだ。(ビギナーズラックの典型か、この後は何度抽選に臨んでも参加賞ばかり...) という訳で、ハンズの、とりわけハンズメッセのとりこになって10余年。今年も8月25日から30日までの期間中、池袋、新宿、渋谷の3店舗をハシゴすることになってしまった。筆者が年をとったせいか、さすがに江坂店で最初に感じた、商品一つ一つが放つ強烈な個性や主張は近年感じられなくなってきたが、しっかりしたコンセプトのもとに集められる限り、その品々は普遍性を以って、いいモノであり続ける訳だし、ましてそれが「特別提供品」や「処分品」だったりすると、目が煌々と輝いてしまうのは相変わらずである。

 3店舗に限った話になるが、今年の特徴として感じたのは、フロアに占めるメッセコーナー(要するに「特別提供品」と「処分品」)が平年より広く確保してあったこと。そして至って少数だが、昨年もメッセ品として出ていたものが再登場していたこと。の2つである。不景気な時世にあっては、東急ハンズとしても商品のやりくりが難しくなっているのでは、とふと思ってしまった。処分品にあっては在庫一掃の意味もある訳だから、これが増えるようだと、商品の回転が思わしくない、と悟られてしまう訳である。ともあれ、利用者としてはそんな心配も、果ては自分の財布の心配も忘れて、すっかりバーゲン状態である。(と言っても、買い物袋を持参するのと、包装を断るのは忘れませんよ。)

 今回仕入れた物のうち、自分で主に使うのは、大容量のクリアファイル、靴磨きクリーム缶の詰合せ、それと小型のシュレッダの3品。買った後で考えると、別にハンズでなければ手に入らない、といった物でもないことがわかる。それだけいろんな物がいろんなルートで入手できるようになったということなのか、はたまたハンズそのものが没個性化してきているのか、いややはり自分自身の感性が鈍って来ているせいか、などと案じてしまうのだが、まぁ市価よりは確実に安い、ディスカウント店よりもちょっと安い、今はそうした基準でメッセを活用するようになった、というのが正直なところである。さて、メッセならではの抽選の方だが、言わずもがな、参加賞のオリジナルポストイットのみ。結果はどうあれ、この楽しみがおまけで付いている以上は、メッセは健在だろうと思う。(それにしても、かつてE賞まであったのが、近年はA~C賞まで。それもA~Cまでの対価も肩並びな印象で、ここにも景気の翳を感じてしまうのだった。)

 10年前に買い求めた「東急ハンズの本」(1986/05)を繰ってみると、「ハンズのキーワード集」なるページがあった。目に付いたものを挙げると、「ハンズ的なところに初めて何かがある」「店がつくる店でなく、お客様がつくる店」「精神は素人で、商売はプロで」「ハンズは情報で人に教えない」「永遠の新規事業」「割り算で割り切れるようなスッキリした答えは見つけない」「モノを通しての自分の生きがい」「マイナーの価値観を大切に」「素材と道具という切り口」「効率の顔でなく、つくり手の顔」「商品を見つけに来るのではなく、自分を見つけに来る」「HANDS-the first tools of Creation」...東急ハンズの店員はどこかしら町工場の職人然とした実直さと温かさがある。こうした精神則が息づいている故と改めて思う。これからも応援したいし、お世話になりたい、今はそんな気持ちである。(東急ハンズを推すのであれば、消費生活アドバイザーとしてもっときちんと批評すべきなのだろうけど、それは別の機会に委ねることにしよう。)

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 第24話 ハンズメッセ'98('98. 9. 1)

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://mt.chochoira.jp/mt-tb.cgi/24

コメントする

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.24-ja

2009年3月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

カテゴリ

このアーカイブについて

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。