第27話 鉄道の日三昧('98.10.15)
明治5年(1872年)というから、今から126年前になる。この年の10月14日に新橋~横浜間に、日本で最初の鉄道が開業、つまり汽車が走ったことを記念してできたのが、10月14日の「鉄道の日」。今年で5年目を迎える。誕生日当日ではないものの、多少お祝いの意味も込めて、10月9日に天城高原に出かけてきたが、帰路で役に立ったのが、今年から発売になった「鉄道の日記念・JR全線乗り放題きっぷ」である。鉄道の日といってもこれまでは、記念乗車券・入場券・プリペイドカードの類が主だったが、5年目を迎えて鉄道の日の意義も深まったのだろう。ともかくこのJRの共同企画はありがたかった。このきっぷ、10月4日~20日までの間に3日分、どこのJRであれ、乗り放題で使える。同一行程3人で1日、同一行程2人で1日+1人で1日、一人で3日連続、一人で日を分けて3日分、などとバリエーション豊富な使い方ができて、計9,180円。1枚あたり3,060円である。青春18きっぷが1枚あたり2000円代前半だから、それよりはちょっと高めだが、5枚つづり、かつバラで使えなくなってしまった18きっぷに比べれば、至って手軽である。(但し、特急・急行に乗るには、特急券・急行券の他に乗車券をさらに追加しないといけない不便さも18きっぷと同様。普通と快速列車しか乗れないのがミソである。出発前に時刻表とにらめっこしなければならない。)
さて、天城高原へは伊東からバスで行くルートが専らなので、鉄道に乗るのは伊東までである。山手線区内から伊東までは、2,210円だから、単純に東海道線経由で行く場合は、乗り放題きっぷでは意味がない。実は伊東までは、最初からスーパービュー踊り子号で行くべし、と決めこんでいたので、往路は正規の運賃(乗車券+指定席特急券)で予定通り。帰りをどうしよう、と考えていたところに現れたのが、この乗り放題きっぷだったのである。思いついたのは、せっかくJR東日本・東海の分け隔てがないのだから、熱海から西進、富士から甲府に北上して、中央線で帰ってみよう、という遠回りプラン。途中下車した駅までの運賃をそれぞれ合算してみたら5,500円ほどだったので、時間はかかったものの十分おトクな旅になった。富士山の西側外縁を富士川に沿って廻り、富士と甲府をつなぐのは身延線。学生時代に全国を鉄道行脚したものの、こうした支線にはなかなか乗る機会が得られないもの。このきっぷのおかげでようやく乗車することができた。
富士山を遠望しながら、平野部をのんびり走っていくものと思っていたが、富士宮を過ぎてからは、何となく勾配が出てきて、富士川の中流・上流と溯るに従って、山間部をせめぎ走るようになったので意表を衝かれた。飛騨を貫く高山本線の車窓から見るのと同じような景色が随所で広がる。この日の富士山は今年最初の冠雪があったというものの、何となく黒みがかった山容で不気味だったが、ともあれ富士山を拝めるのは、富士から20分ほど走った富士宮近郊までで、そこから先はこんな山合になるのである。身延線の中間にあたる身延を過ぎると、多少平地が多くなり、田圃や果樹園が目に付くようになる。10月10日は晴れの特異日。この日も前日の快晴から続く、夏日のような陽射しに時折見舞われたが、さらに北上し、甲府盆地に入って来て、田畑が浩々と広がる景色に変わると、一面に降り注ぐのはやはり秋らしい穏やかな日差しだった。収穫期の盛りにある田圃では、刈った稲わらを積む作業に携わる人垣をところどころで見かける。日本の田園風景の豊かさと実りの秋の一端を感じることができ、有意義だった。
往路のスーパービュー踊り子に話を戻す。これは筆者が通勤で使う埼京線を出中かすめていくので、何とか乗る機会はないものだろうか、それも池袋から展望車両に乗り込んで、とかきたてられていたのをようやく今回実現させたものである。1カ月前に朝一番で展望席を押さえられたのは幸運だったが、進行方向、つまり下り方面の先頭展望車両がグリーン車であるなどというのは知る由もない。押さえたのは最後尾の展望車最前列だった、というのに気づいたのが、当日、池袋駅のホームでのことだったからどうしようもない。スーパービューは、東京発通常の踊り子号の指定席料金にさらに上乗せの料金になっている。となれば、先頭展望車のプレミアムはその上乗せの範囲内と考えるのが常道だと思うのだが、実に甘かった。新宿南の高島屋タイムススクエア、恵比寿ガーデンプレイス、埼京線から横須賀線に乗り入れる際に通過する大井操車場のポイント、みな後向きである。押さえた展望車座席が最後尾と知って驚く乗客は他にもいたが、何だかんだでこうした鉄道の旅にハプニングはつきもの、と割り切ることにして、後ずさりする展望を楽しみながらの往路となった。
さて、平成10年10月10日を記念に扱うきっぷを旅中、探してはみたが、甲府にあった程度でいいのが見つからなかった。ということもあって、翌11日には、鉄道の日にちなんで開催される「鉄道フェスティバル」に足を運ぶことになる。全く以って鉄道の日三昧である。会場の日比谷公園は、天気に恵まれたのはいいとして、ポケモンアトラクションとかなんとかのおかげで、親子連れを中心に大にぎわいだった。スポンサー企業の出展が増えた分、ゲームコーナーなども盛んで、過去4回のフェスティバルとは趣を変えて、すっかり大衆型イベントになっていた。(予告ポスターにしても然り!) とはいえ、小田急線の停車駅案内のボードなぞを抱えている人がうろうろするあたり、やはり鉄道イベントに間違いない。ステージの対面、日比谷公会堂側に行くと、民鉄(日本民営鉄道協会)の合同テントがあり、ようやく本来の鉄道フェスティバル然とした臨場感を得ることができた。
今年は第5回という節目のせいか、民鉄の出展数が多いのに驚いた。大手私鉄各社の他に、北は津軽鉄道、西は広島電鉄まで。岩手県を走るくりはら田園鉄道は、1,000円以上お買い上げで新米500gプレゼント、なんてのをやっているし、関西の私鉄各社は関西弁丸出しで、自社の記念プリペイドカード(当然、関西でその線に乗る時でないと使えない)の宣伝に躍起。東急は東横線新丸子駅のボード(駅名標)を1,500円で売り出す力の入れ様。上毛電鉄や大井川鉄道なんかも出ていて、ちょっとした鉄道博である。筆者は、10.10.10がお目当てだったので、民鉄コーナーでは結局、京浜急行の品川駅硬券10.10.10と11月17日に駅名が変わる羽田駅の硬券10.11.17を買い求めた程度。他には、JR四国が出した「五十崎・十川・八十場の10.10.10記念入場券」(ちなみに駅名はそれぞれ、いかざき・とかわ・やそば、と十の読み方がみな違う。鉄道クイズにはもってこい?!と思われる)を買ったが、ついで?に弘済出版社コーナーの山手線路線図(ドアに貼るシール状のもの)なども買ってしまった。どうもこの手の販売品には相変わらず目がないようだ。こどもがやたら多かったせいで目立たなかっただけかも知れないが、いわゆる鉄道マニアっぽい諸氏にはお目にかからなかった。筆者が会場に着いたのは、13時ちょうどくらいだったから、午前中に来て、ひととおり物色した後だったとも考えられるが、マニアと鉄道各社社員のやりとりを立ち聞きしていると、結構耳寄りな情報が得られるだけに、ちと残念だった。(そんな筆者もやっぱりマニア?)
そんなこんなで、鉄道の日を前後して、鉄道三昧になるこの時期だが、どうやら毎年恒例になりそうだ。乗り放題きっぷは、あと1回分残っているので、まだ乗ったことのない路線・降りたことのない駅をめざして、旅に出ようと思っている。しかしながら一つ気にかかるのが、10月10日、伊東駅改札で乗車日をスタンプしてもらった際、見慣れないきっぷ故、駅員さんが間違えて3回目の欄にも押してしまい、「誤入鋏印」をもらうハメになったこと。次回使う際、3回目の欄にちゃんとわかるように乗車印を押してもらうと同時に、途中下車で改札を通る時、ちょっと釈明が必要になりそうなのが面倒だ。また何かハプニングが起こるだろうが、それもまた楽し、とするべきか...
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