第29話 消費税還元('98.11.15)
消費税導入が方向付けられたのが、今から10年前の1988年11月10日。自民党が単独強行採決した日である。怒号の中、翌月12月24日に法案が成立し、1989年4月1日には各地の商店街などが導入反対の横断幕を掲げる中、消費税がスタートした。まだ記憶に新しいところである。当時学生だった筆者は、大学で消費税について少しばかり学習する傍ら、生活防衛の意味も込めて、出納帳を付けるようにしていた。全体の支出の中で消費税がどれだけ占めるものかチェックしていたのを思い出す。店によって、計算の仕方が違うことも会得した。30円の小さなスナック菓子を買うと、30円×0.03=90銭分の消費税が上乗せされることになるが、これを切り捨てるか、切り上げるかが店によって違うのである。30円で買える場合と31円かかる場合と。切り上げは便乗値上げのようなものであり、客を愚弄した行為だと思ったものだ。小さな買い物をして、店を比較してみる。切り捨てで課税する良心的な店を選ぶようにし、倹約に励んだものである。
1年も経つと消費税が当たり前のようになっていて、抵抗感も薄れていったが、例えば90円単価のものを1つ買えば、92円で済むが、2つまとめて買うと185円になってしまうことには、ずっと腑に落ちないものを感じていた。どの店でも単価に対して課税し、あとで合計すればいいものを、そう常々思ったものだ。1円を笑うことなかれ。店によっては、まとめて買うよりは、個別に買った方が安く買えることが実際にあったのである。(この倹約精神は今でも続いているが、時として思わぬところで要らぬ出費をしてしまうことも変わっていない。)
という訳で、1円を軽んずる仕組み上の欠陥もさることながら、税率を上げることで、消費を冷え込ませる効果も確認?!された消費税。消費刺激につながる具体的な国策が打ち出せないでいる状況に発憤した流通・スーパー業界の一部が11月11日頃から「消費税還元」を銘打ったセールを始めた。タイトルがめぼしかったのが良かったのか、ただでさえ利益(利益率も)が一番いいI堂は、かなり客足を伸ばしているようだ。筆者の勤務先である武蔵小杉と筆者地元の赤羽にI堂はあるが、どちらも賑わっていた。ふだんの同じ時間帯での混み具合がわからないので、一様には言えないが、レジに並ぶ列の長さを考えれば、好調と言っていいと思う。武蔵小杉店は専門店も抱えているので、専門店も同時に5%還元をしないと効き目が鈍るような気もするが、そこは個別の事情で致し方ないのだろう。換金性の高い金券やチケットの類の他、介護用品なども対象外になっていたが、それ以外の店内全品どれをとっても、還元の成果が現金ですぐに返ってくるところがツボを得ている。貼り出されていたレシートの拡大見本を見ると、合計額10,700円に対し、いったん5%を引いて、そこへ5%課税することになっている。単純に課税しなければ、5%浮くことになるが、いったん引いて母数を小さくしてから、1.05をかけることで、実質的な値引きになっているところがポイントである。10,700×0.95=10,165円、10,165×1.05=10,673円。という訳で27円おトクになっている。さすがは利益率トップというだけのことはあると感服した。(ちなみにI堂系列のコンビニは「不況突破企画」と打って出た。客を鼓舞するのにこれほど明確なメッセージがあるだろうか。)
一方、売上トップのDはどうかと言えば、レシート合計で10,000円超に対し、500円のお買い物券進呈という設定で、何とももどかしい還元である。実際に消費税還元という打ち方はしておらず、単なる「生活応援」なので、還元の意図はないのかも知れないが、お客にとってはあまりメリットがない話だと思う。(10,000円に満たない買い物では5%分を享受できないのである。) それにわざわざ買い物券という紙片を用意しなければならない訳だから、紙資源を使う上、コストがそれだけ余計にかかってしまう。D社長は、日頃から値下げするのが消費者サービスと高言していた。だが、それは商売道の基本に沿った考えであって、この時世においては、セールの目的を客にわかるように明示し、活気を起こさせる方が、全体としては得るものが大きいのではないだろうか。武蔵小杉には、I堂の他に、Dグループの○エツが店を構えている。店舗の大きさのせいもあるだろうが、○エツの方はI堂に見たような賑わいはなかった。店員も心なしか元気がないように見受けた。I堂より5日間長く、11月20日までお買い物券プレゼントを続けることになっているが、どれだけの効果が出るものか疑問に思う。本当に消費者が求めているサービスをタイムリーに提供しない限り、Dグループの利益及び利益率の向上は望めないのではないか。そう感じさせる展開だった。(話はちと逸れるが、今の時期、商品を半額にして、とにかく客足を増やし、結果的に何倍もの売上に結びつけるという事例をよく見聞きする。常にディスカウントする場合は薄利多売と言えるが、一時的に思い切った値下げをすることで、消費を刺激する策は歓迎できる。客側・店側にとってメリットがあるのは言うまでもない。)
赤羽にはI堂の他、Dもあれば、S友、N屋もある。それぞれどんな展開になっているか、最終日までにのぞいてみようと思っている。ただ心配なのは、日頃の奉仕価格を取り下げて、還元分を吸収すべく一部の商品で値上げでもしやしないか、という点である。安いからといって、何でもかんでも手を出すのは慎みたいものだ。
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