第54話 イルミネーション('99.12. 1)
今年の夏は暑かったが、その余韻で秋も暖かかったんだそうな。さすがに12月に入ると、木枯らしが身にしみ始め、数ヶ月前までのそんな暖かさが嘘のように感じるから、季節の循環というのはつくづく偉大だと思う。
この寒々とした季節になると、街のそこここで、ライトアップならぬイルミネーションが目に付き始める。温かみを醸す演出として、また近づくクリスマスを街挙げて祝うための装飾として、それらはなかなか心憎く出来ている。筆者がよく目にするのは通勤路途中の新宿南口タカシマヤ(TIMES SQUARE)にある電飾だが、10月の末頃から設置工事が始まり、かれこれ1カ月以上。草分け的なイルミネーションである。ワイヤで象ったサンタにトナカイ、メルヘン風の小屋、雪だるま等々のクリスマス風物詩に電球を付けたものが毎夜毎夜、ピカピカやっている(エレクトリカルパレードのようなものである)が、カップルを中心に記念撮影する光景がひききらず、すっかりおなじみになった観がある。ちょっとしたハズミで壊れてしまいそうな脆そうな造りなのだが、誰もイタズラしないし、もちろん壊されもしないから、それだけ大事に扱われている(地域に根づいている)のだと思う。
ここを通ると何となくホッとさせるものがあるのだが、心のどこからか異議が出る。これにかかる電気代は一体いくらで、どこが負担しているのだろう、などと余計なことも考えてしまうのである。銀座ミキモト本店のクリスマスツリーは有名だが、今年は新橋駅のSL広場にある機関車も電飾されたそうだ。この手のネタはいくらでも作り出せるだろうから、例えば、渋谷のハチ公、浜松町駅ホームの小便小僧、上野公園の西郷さんなど。山下公園の氷川丸はもともとライトアップしているが船体に電球を張りめぐらせたら圧巻だろう。とにかくモニュメント的なものは要注意である。
太陽光で蓄電しておいて、夜に点灯する仕掛けがあってもいいだろう。その日の蓄え具合により、消える時間が不規則になったとしても、それはそれで一興である。どこかにあるかも知れないが、あるとわかれば見に行きたいものである。自然エネルギーなら、より心温まりそうだ。どしどしイルミネーション化してほしいものだと思う。
筆者職場のあるコスモス青山でも、用意されていたクリスマスツリーに先日、灯りが点った。東京ウィメンズプラザや青山ブックセンター、東京都公園協会や住宅供給公社、そして花やワインの教室まであるこの建物で働く一同(ふだんお互いの交流がないのでちょっと新鮮だった)が集まり、その点灯を見守るというのだから、ちょっとした催しである。式の挨拶の中で聞いて初めて知ったのだが、今年は表参道の一大イルミネーションが中止になったというから耳を疑ってしまった。それ故、このコスモス青山のツリーイルミネーションが風物詩になるだろう、というからちょっと複雑な気分である。
思い起こすに、昨年は表参道のイルミネーションで、こんな一幕があった。
クリスマスを迎える風物詩ともなった東京・原宿の表参道のケヤキ並木を彩るイルミネーションをめぐって、地元に住む五十五人が「商店街振興組合原宿シャンゼリゼ会」を相手に、計画の中止と、すでに設置された照明類の撤去などを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。...
これは「年の瀬に激しい交通渋滞を巻き起こすうえ、観光客によるごみの散乱やたばこの投げ捨てなどによって、生活権を侵害されている」という理由による。ちょっと放っておけない。住民側は、(1)排ガスによる空気汚染の助長、(2)タクシーなどで帰宅する際に時間がかかる、(3)見物にきた若者が敷地内にごみを投げ入れる、(4)病気で119番しても救急車の到着が遅れるのではないかと不安になった、等の問題点を挙げ、生活権や環境権などが侵害されたと訴えたのである。
もともとこのイルミネーションは1991年、「街のイメージアップに」と発案した原宿シャンゼリゼ会が飾り付けを始めたもの。毎年、12月半ばから10日間余りにわたってケヤキ並木をライトアップする慣わしだった。(昨年は12月12日から25日まで、39万個もの電球を使って「98キャスター・イルミネーション・ギャラリー」として実施された。)
職場がこのシャンゼリゼの近くになったこともあって、昨年は時々足を向けては喜んで眺めていたが、今年はそれが叶わなくなってしまった。(電飾の派手さには懐疑的ではあったが、ちょっと残念ではある。) 1900年代、そして1000年代の最後を飾るに、ここでイルミネーションを点せば、象徴的イベントになったとは思う。そんな憶測もあっただけに、今年のこの開催中止決定には驚きとともに、地元の苦渋・英断を感じさせる出来事と思った。住民側の主張、そして仮処分が通ったことによる中止。地元商店街は経済効果を期待する、しかし一方で住民側は不惻の迷惑を受けてしまう。これは原宿・表参道という場所の特異性(住宅と商店が隣接)もあるだろうけど、似たように商店街と住宅街が何らかのイベントをめぐって対立するケースが有り得ることを示唆している。見物客はそんな事情などどこ吹く風だろうけど、一部の心無い見物客のために、商店街と住宅街の対立を招くことになったとしたら、断罪して然るべきと思う。
イルミネーションは、街行く人々が共に平和になれる空間を作り出す。派手さはなくてもちょっとしたチカチカで、十分心和むはずである。そんな光景を唄にしたものの一つに、吉田美奈子の「SUNSET」(アルバム「モノクローム」に収録)という曲がある。筆者の好きな一曲である。今回はこの歌詞を記して、筆を措くことにする。(シンプルな歌詞ながら、暖かみと広がりを感じさせるのがポイントである。)
街に今一つの幕が降りようとしている
忙しく部屋に帰る人々
それを止めるようなIllumination
迷う心のほほえみ 交わす時
また楽しげなざわめき 舞い込んだ 夕暮れに
落ちる陽の光に影 長く路にのびて揺らぐ
通り抜ける雲数知れず なに気なく出会う人に似て
思いを込め 見上げれば
美し過ぎるSUNSET!
心に染み透る
Copyright 1980 by ALFA RECORDS INC. JAPAN
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