第56話 東京ミレナリオ(2000. 1. 1)
☆新年、新千年代、あけましておめでとうございます! 引き続き「東京モノローグ」をどうぞよろしく。
第54話で表参道のイルミネーションが中止になった件を書いた矢先、丸の内で「東京ミレナリオ」なるイルミネーションイベントが開催されることを知った。95年から煌々と神戸でやっている「ルミナリエ」を羨ましく思っていたところだったので、それと同じような造りのミレナリオが東京に現れるとなれば、これは朗報である。
表参道では、原二商店会など脇道の商店街が涙ぐましくオリジナルのイルミネーションを点していたが、やはり大通りのイルミネーションには比べるべくもない。表参道に毎年流れ込んでいた人波は、今年は散り散りの時を過ごすはずだった。が、丸の内でにわかに復活したことで、そうは行かなくなりそうだ。(仮に表参道と丸の内、両方で開催やっていたら、人工衛星から撮影した東京の夜はさぞ白々となっていただろう。)
クリスマス前夜と当日は混むのが自明だから敬遠する。一日ずらして、日曜日の26日、点灯開始の18時に東京駅に着くように足を運んでみた。丸の内中央口に来るや、すでに行列ができていて、会場入口まで東京駅前の広場を迂回するような形で牛歩状態である。丸の内線に通じる地下通路を伝って、会場近くの階段出口に出ればいいのはわかっていたが、せっかちに見に行くのも風情がないし、途中で列に加わるのは気が引けるから、とにかく流れに従って静かに歩く。気温がやたら下がっていたので、寒さがちと堪えはしたが、この行列の人いきれに助けられた。ありがたいことだ。
東京駅正面から二重橋に伸びる大通りまで来ると、遠くに神戸ルミナリエによく似たまばゆいアーチが目に入った。アーチの説明を見ると、
- 会場:丸の内仲通り「ガレリア」(光の回廊) 約350メートル
- タイトル:「光の波」(Onda di Luce)
- アーチの数:22基
- 高さ:約12メートル
- 幅:約9.4メートル
とある。表参道ほどではないが、アーチそのものが荘厳なので、確かに見応えはありそうだ。
これまでのそぞろ歩きが嘘のように、会場の丸の内仲通り内の通行は至ってスムーズなので、拍子抜けである。歩行者用の通路は閉ざされ、見物客は車道のみで一方通行。歩道に出ようとすると制止されるし、脇に寄って写真を撮ろうとすると、停止を禁じるアナウンスが飛び交う。通行に支障が出るような状態でもないのに、混雑必至のイベントでは毎度こんな有様。多くの人は聞き入れる様子もなく、飄々と記念写真を撮っている。こっちもお構いなしで、時折足を停めながら、アーチをじっくり観察させてもらった。煌びやかな電球はよく見ると、金色・黄色・赤・ピンク・緑・青の6色の電球で彩られていて、ステンドグラスのようである。十数万個もの電球を使っているだけあって、実に明るく、行き交う人の笑顔も明るい。イルミネーションはかくあるべき、というお手本のような回廊である。電気がもったいないのは百も承知だが、ここはまあよしとするべきか。
それにしても350メートルという道程は長いようで短い。22基のアーチも先頭から眺めれば壮観だが、中間を過ぎると迫力が落ちてくる。インパクトというものはそう長くは続かないもので、峠というか一線を過ぎると冷めてしまうから哀しい。ここはともかく参加することに意義があるので、ミレナリオ(「千年祭」の意)に立ち会えたこと、そして千年の変わり目を一応祝えたこと、を重んじたいと思う。
光の彫刻「パラトゥーラ」。今回のイルミネーションの共通用語である。80年代以降、イタリア、スペイン、フランス、アメリカ等、世界各地を賑わしてきたこのパラトゥーラは、千年に一度の祝祭ということで、東京にやって来て「東京ミレナリオ」は実現した。来年以降も続けばいい風物詩になるのだろうが、あくまで「ミレナリオ」ということなら今回限りか。人々に笑顔を、そして心に仄かな灯りを点す、そんな本来のイルミネーションとしての役割を期待するなら、名前を変えてでも継続してもらいたいものだ。
2000年を迎えるのに前後して、その一大転機をいったいどうやって過ごしたらいいのかとまどっている人が多いような気がする(筆者も多分に洩れず)。 2000年問題が翳を落としているのは否めないが、こうした粋な祝祭がもっとあちこちで展開されてもいいように思う。もちろんカウントダウンパーティーや年越しライブは多数開催されるが、娯楽性の追求以上に、それに参加することで暦の大きな節目を静かに深く意識できるものが望ましかろう。身辺や社会を見直すいいきっかけにもなると思うのである。2000年代、そして来年以降の21世紀は、いい意味での見直しが進むことを期したい。
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