第70話 行列のできる店(2000. 8. 1)

 どこからともなく評判を聞きつけて、常に行列ができる店というのがある。昔からの常連にとってはあまりありがたくないところと思うが、常連は常連なりに、行列客を尻目に昔からの流儀やその店ならではのルールを誇る楽しみがあるから、大概は良しとしているようだ。常連さんはそれぞれ思うところがあったり、習慣上通い詰めることもあるから、あまり疑問に思わないのかも知れないが、そうした評判を自ら確かめるべく、いわゆる「行列のできる名店」に足を運ぶと「なぜここが...」と絶句してしまうような事態に遭遇することがある。決して評判・名声にあぐらをかいている訳ではなさそうなのだが、行列をさばくのに手いっぱいで、客一人一人への基本的サービスが行き届かない、そんな印象を受けることが多いのである。

000708.jpg 東池袋駅とサンシャインビルに挟まれた界隈は迷路のようになっていて、その行列店には易々とたどり着けないようになっている。迷路を進むとやがて五叉路が現われ、その一角に目を転じてみる。そこにあるのは、ぐっと時代を感じさせる一軒のラーメン店である。周りの家屋ともども時代を感じさせる風情があってそれだけでもなかなか良いのだが...。行列ができるので有名で、30分待ちはざらと聞いていた。ある夏の日、それは台風一過の日曜日だった。早起きできたこともあって、ここのラーメンでお昼をとることにした筆者は11時30分頃からこの行列に加わっていた。台風が去ったとは言え、空模様が不安定なので雨傘を持っていたのが幸いして、急激な晴れ間・陽射しを避けることができ、余裕を以っての行列待機である。さて、ここからが本論である。手っ取り早くお伝えするため、箇条書きで記すことにする。

《いただけない点》

  • 妻と2人だったので、ラーメンともりそば(つけ麺)を一つずつ注文した。予め注文をとるあたりはさすが、と最初は感心したのだが、実はこれが全然機能していなかった。というより、別々のものを頼んだのが禍となってしまったのである。
  • 店に入ってから気付いたのだが、もりそばとラーメンで完全分離ローテーションを組んでいて、あるロットで固めて、もりそば5つ、その次にラーメン6つ、なんていう出し方なのである。つまり、一度外す(次のローテーション待ち)となかなか出てこないことになる。これはちょうど、複数の系統が通るバス停で、特定の行先のバスをひと度逃すと次がなかなか来ないのと同じ状態、という訳である。
  • 行列時に注文を聞いてくれたオジサンは良かったが、出入口の門番みたいなオッサンが不可なかった。人の注文をちゃんと確認しないからこうなるのだ。筆者らの注文がローテーションに組み込まれなかったためか、なぜか後続4人組の「もりそば×4」に先行され、その後のラーメンローテーションも後回し扱い。次のもりそば&次のラーメンでやっと出てきたのだ。
  • 狭い店内でただでさえ暑い上、途中、席替えを強要され、イライラが募る中、結局店内に入ってから、20分以上待たされた。列に並び始めてからだとすでに1時間以上。客の時間を何だと思っているんだろう!
  • 門番のオッサンの愛想が良くないことと言ったらこの上ない。詫びの一つもないんだから呆れたものだ。(会計のオバサンも無愛想だったなぁ...)
  • 肝心の麺はと言うと、一口・二口目はそれなりのインパクトがあったが、量が多い(何と250g)だけに、残念ながら麺の程良さが持続しない。つまり汁が浸み込み過ぎて、口の中でもたつく感じになってしまうのである。3分の1を食したあたりで正直うんざりだった。
  • 量が多いので、みな食べ残して、会計の前の残滓入れはすぐいっぱいになっている。(ここは食べ残しの後片付けはセルフなのである。衛生上問題ないのだろうか...)

 という訳で、麺自体も大した評価には到らず、筆者ランキングでは、20位以下(いや30位以下か)、とにかく圏外である。

《まぁ評価できる点》

  • 常連客のマナーが悪くないので、ひとまず安心して並んでいられる。
  • 帰り際のセルフ後片付けは、皆、文句もなく黙々と済まして行くから、何となく清々しい。(食べ残しはいただけないのだが...)
  • とにかく安価で量が多いから、それで満たされる人には打ってつけである。

 たとえ、安い・旨い・多いの三拍子で評価を受けているとしても、これで行列店として評価されていいのだろうか、という疑問は残る。行列の本質をつきつめる(そもそもなぜ行列ができるのか考えてみる)と、1)ローテーションシステムが機能しない場合、予め注文をとってあってもすぐに出て来ないから、客一人あたりの時間が長引く。2)量が多いから、やはり滞在時間が長くなる。3)店内が狭く、入店できる人数がもとから限られている。等々、単に行列を少なくするための工夫がないために、行列ができる、それを「行列=名店」と考えるとしたら早計なのではなかろうか。

 もう一例。等々力駅・上野毛駅から徒歩15分(ゆっくりめ)程度のところ、用賀中町通り沿いに、芸能人も通う店として超有名?!なうなぎ屋がある。筆者がかつて等々力に暮らしていた頃、自転車でその店の前を通ることはあっても、実際に入店しようなんてことはまず考えなかった、そんな店である。第59話で紹介した例の番組で先般「上野毛」編が放映され(相変わらず世田谷びいき...)、その店が上位に入り、いろいろ素性がわかったので、意を決して行ってみることにした(この日は等々力渓谷で恒例「ほたる祭り」もあったので)。番組につられて、即ちミーハー的なところがあるので、威張ったことは言えないのだが、されどそういう客だからこそ、むしろ大事にしてもらいたいものである。

《いただけない点》

  • 「ぐるなび」に載っていたのでEメール予約するも、受付無効との返事。何でもシーズン?!中は常連でも受け付けないのだそうだ。そういう時節は、常連さんは避ける、と聞いていたのだが、着いてみたら案の定、長蛇の列。何か話が違うなぁ。
  • 土用の丑をあえて選んだのが不可なかったのだが、「うな重(イ)」が「ぐるなび」では¥2,500だったのに、この日はJRの帰省シーズン料金よろしく、特別料金の¥3,000、これには参った。
  • 12時前から50分程待って、ようやく通されるも、当方この日は3人だったので、折り良く4人掛けの座敷卓で収まるかと思いきや、相席で5人掛け(2+3)を強要され、しかも筆者のはみ出し席は、座布団のみで背もたれはなし。他の3人組は悠々と4人卓を1卓占めているのに、である。そこは当然4人のところ、3人だから背もたれは余っているのである。一つこっちに回したらどうなんだ!
  • お茶のお代わりを頼んでもちっとも出てこない。のべ5人目でやっと出てきた。他の卓はわりとさっさと出しているのに、である。
  • 肝心のうな重は、と言うと、自慢の国産鰻だからなのか、少々泥臭い感じがした。ここは使っている水が小山酒造同様、地下からの汲み上げだそうだから、水は良さそうなのだが、その水を使って炊いたせっかくのご飯の味が、鰻の臭みで減衰してしまっている印象を受けた。(それが名店の「妙味」なのかも知れないが。)
  • 店員が解説してくれないから、注ぎ足しのタレも、山椒もどれだかわからず、途中で気づいて慌ててかける始末。山椒を早くかけていれば、もうちょっとは玩味できたかも知れない...。

《まぁ評価できる点》

  • 建物の風情、常連客と思しき人達の立ち居振舞い、店員の基本的な接客姿勢、はやはり良かった。
  • 値が張るだけに、うなぎそのものの大きさは圧巻だった。肝の吸い物も感服した。
  • 一服する人が極めて少なくてホッとした。うなぎを食すのに煙は無用である。

 この店の場合は、土用の丑当日・前後日に特に行列店になるそうだから、前例のラーメン店のような行列原因の解析は当たらない。しかし、冒頭に書いたように、行列日になると、その待ち客や注文ラッシュをさばくのに手いっぱいとなり、客一人一人への基本的サービスが行き届かなくなってしまう、というのはやはりいただけない。

 てな訳で今後は、行列のできる理由、行列ができた時の対応ぶりを予め吟味した上で、本当に秀逸な行列店を自ら見出してから行きたいものだと思うのであった。

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