第42話 BGM一考('99. 6. 1)

 有線放送に加え、衛星を使ったBGM専用放送まで現れて、専用のチューナーを置く店が増えているのだろうか、どこへ行っても様々な音楽が耳に入るようになっている感のある最近の街中。自分で持ち歩く音楽の他に、行く先々で音楽浸けになる事態は果たして歓迎すべきかせざるべきか。

 一人で黙々と本を読んだり、買い物したり、食事している分には、いくらでも聞き流せるのでさしたる影響はないのだが、複数の人と会話しながら、飲食したりする向きには、どうも雑音になってしまうことが多いようだ。

 「みんながみんなとつながるボランティア・ネット」(ViVa!)のちょっとした打合せ(と言っても雑談目的)で入った西武新宿駅近くの店では、とにかくレゲエの類が延々と鳴り続け、とても話し合いができる状態ではなかった。重低音がやたら大きく、ズシズシと鼓膜を刺激する。いくら近頃の若者がボキャブラリー不足で、大した会話もしないから影響がないだろう、とは言っても、物事には限度がある。(この店を選んだのは、得意?!の「新宿ウォーキングマップ」の優待特典につられてのこと。雑音の代償を兼ねてか、さんざ飲み食いしたのにお一人様600円程度で済んでしまった。この月の優待割引率はなんと50%だったが、翌月チェックしたら、20%程度になっていた。我々の利用に懲りたのか、ともかく変な店である。)

 妻の誕生日祝いで、これまた特典につられて入った池袋の店にもタマげた。上記同様の重低音攻撃で、会話も何もできやしない。たまらず店員に談判したら、素直に応じてもらえ、音が小さくなったのに加え、照明のトーンが落ち、音楽のジャンルも変わってしまったのには驚いた。それならはじめからそうしてくれればいいものを、と思ったが、要は何事も相談してみるものである。

 これらは、音が大きいことによるBGMの弊害。もう一つの弊害は、聴きたくもない曲がかかることによるストレスである。これは一人だろうが複数だろうが関係なく、たまらず逃げたくなるものである。

 第39話でどんぶり屋の紹介をしたが、メジャーでないどんぶり屋に入ると、売れない歌手のB~C級の音楽がかかっていることが多い。たまにはいい曲もあるが、たいていは歌詞も曲も不明、かつ聴くに堪えないものがあり、ゆっくりどんぶり飯を味わっていられなくなってしまうから悩ましい。立ち食いそば屋の類は客層を考えてか演歌が多いが、いくら空腹で、旨そうなセットメニューなどがあってもド演歌がかかってたりすると、つい踵を返してしまう。つまらない理由かも知れないが、なかなか食事にありつけないこともしばしばな筆者である。

 近頃はやりの100円ショップでもマイナーな店ほど、やはりB~C級の音楽がかかることが多く、聴いているとだんだん落ち着かなくなって、買い物途中で店を出てしまうから、BGMも一長一短、考え物である。BGMのせいで客が寄らない・逃げ出す、なんてことになると、これはまずその店の問題ではあるが、仮に有線や衛星経由のものを使っているなら、BGMを提供する側にも問題があるように思う。

 聴きたくない曲が大音響でかかったら、それこそ失神ものである。時間を拘束されない店ならいいが、飲食店、さらには理髪店でこうした目に遭ったら、たまったものでない。

 さて、筆者の職場の近所に、知る人ぞ知る環境系喫茶がある。環境系なので、BGMも当然エコロジカルかつヒーリング系なので、何事もなければ心地よいのだが、一つ困ったことがあった。定例的に店を一部借り切って、天然素材を使った楽器を作るワークショップが開かれる、というものだ。オーナーはナチュラリストな点はいいのだが、どうもワンマンっぽいところがあって、客のことに頭が回らないらしい。こっちが人を集めてちょっとした打ち合わせをしているのにお構いなく、グループで楽器の試演をしてしまうのである。せっかくのBGMも台無しな上、練習レベルで好き勝手に音を出すもんだからちっとも癒しにならない。これまたViVa!の雑談会の時だったので、やむなく途中で引き上げさせてもらった。打合せに使っていけないなら、その旨、書いておいてほしいものだ。客を大事にできなくて、自然や環境に思いやりを示せるのか... 大いに疑問を感じたものである。この件以来、同店には足を向けていない。電気的なBGMの弊害は先に書いた通りだが、これは手作りのBGMであっても、時と場合を弁えないと、ありがたみがなくなってしまう、という事例である。

 今年の横浜・こどもの国の「アースデイ・フェスティバル」もこれと似たような事態を招き、歌と踊り関係の一部のパフォーマー・出演者に迷惑がかかってしまった。環境を考えた音楽なのに、その音量の大きさと他者への配慮が足りなかったことにより、不調和を招く結果となってしまった訳である。客のこと、他人のことを考え、皆がハッピーになれる音楽を程よく提供する・流す必要を感じる次第。公共の場所ならば、なお一層、考えたいことである。

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