第194話付録:万博レビュー
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第194話 付録:万博レビュー(2005.10.5)


1. 4月1日の見学レポート

4月1日の地球市民村と観覧車 青春18きっぷユーザーにしては、実は生まれて初めてだった「ムーンライトながら」に乗って、4月1日早朝に名古屋入り。一日乗車券であちこち動きながら、東山公園近くの宿で、メンバーと合流。東山線に乗ってそろって移動し、藤が丘へ。記念すべき、初めてのリニモ、そして初の愛知万博入りを果たす。開幕後1週間での万博というのはまだまだ新鮮な感じで、北ゲート近くのグローバルループから会場を見渡した時は、感無量だった。舞台となる地球市民村には10時前に到着。既存施設を利用したセンターハウス(アースドリーミングシアター含む)はきちんと手が行き届いていて好感が持てたし、お世話になるパビリオンエリアも「場」としてはなかなかの出来。当時はまだ閑散としていたので、見学もしやすく、大まかな感触をつかむことができた。机上や席上よりもまずは現場。各人の現場での感想をふまえ、2日・3日と会議に臨むことになる。

 筆者の万博会場に関する当時の感想は、以下のような感じ。何となく言い当てているような...

・会場がかなり広いので、長時間かけてお目当てのものを見たら、それで終わりになってしまうお客さんが多そう。(地球市民村には、会場をくまなく廻ろうと思う人、地球市民村を目当てにする人、が来る程度と思われます。)
・リピーターが増えれば、お目当てを見終えた次の回に、地球市民村にも来る可能性はありそう。今は少なくても、いずれじわじわと増えるのではないかと思います。
・企業パビリオンなどで行列を作ってしまう人たちは、かつての万博を知る世代(行列慣れ系)、または、マスコミがとりあげたものをそのまま受け止めてしまう大衆系(?)が中心だと思います。今回は多様なお客さんが来るはずなので、人気や出足も多様化してくるでしょう。
・4月1日午後は、外国のパビリオンを中心に見学しました。万国博覧会という趣旨からすると、これが正しい(?)過ごし方かも知れません。ただし、「環境」をテーマにした展示はあまり見受けられませんでした。(韓国、中国もテーマはしっかりしていたものの「環境」を伝える展示はなかったので、発伝所がしっかりフォローする必要がありそうです。)

 4月1日の万博会場は肌寒く、そのせいか人も随分と疎らだった。写真を見ると、9月とはあまりに様相が異なるのでビックリである。


2. 9月の概況

 筆者が関わったパビリオン「日中韓・環境見聞館」の様子については、同じくこちらのニュースなどをご参照いただくとして、ここでは全般の概況について。

 9月の万博会場は、晴天だと大勢押し寄せてくる一方、雨天だとガタ減りする印象。(「入場者数の推移」参照) 天気以外の傾向としては、(1)通期パスポートを使ったリピーターが全体的な入場者数を押し上げていること、そして、(2)企業パビリオンをひととおりクリアしたリピーターが海外の人気パビリオンに行って、入場待ちの時間の逆転現象(企業系<海外系)を起こしていることが挙げられるだろう。(最長待ち時間データを見ると、意外な数字が...「主なパビリオンの来館者数」参照)

 数が多ければいいというものではないが、大勢いらっしゃると活気も元気も出るから、よしとしたいところ。ただ、地球市民村は、他のシステマチックなパビリオンに疲れたお客さんが来る可能性が高いようなので(特にリピーター)、来館者が大挙して来ても、ゆったりとリラックスモードで臨んだ方がCS的にはいいと感じた。

 9月6〜7日にかけ、台風が掠ったことでちょっとしたドタバタ(地球市民村の開村時間1時間繰り延べ、小学校の社会科見学見送りなど)が生じたが、警戒レベルが高まっていた地震には遭わず、無事に閉幕を迎えられたのは何よりだった。

*[参考]9月4日、3カ国会合での万博についての意見などは、こちらの環境ニュースの通り。さすが鋭い指摘ばかりである。


3. 「日中韓 環境見聞館」の特徴・課題など

  • ふりかえり、成果など

・お客が納得するまとめが足りない面はあるが、逆を言えば「知る」「伝える」の比重を重視している証しと言える。
・当館の基本的なスタンスは、「お客さんがパビリオンを創る」、ではないかと思われる。お客の裁量や声を尊重するプログラム中心、という考え方だと、事前の仕込みは弱くても、自由度が高い分、お客さんにとって喜ばれるものができそう。
・LIVE感は、お客との対話で生まれる。その場の状況に応じて、場を創れるのがスタジオの良さ。そしてスタッフの持ち味がさらにLIVE感を引き立てると考えられる。
・そもそもスタッフが楽しまないとお客も楽しめない。ワクワク感の中から感動も派生してくる。
・地球市民村は、他のシステマチックなパビリオンに疲れたお客さんが来る可能性が高い(特にリピーター)。初めての万博で初めての市民村のお客には特にしっかりしたものを届ける必要はあるが、構成比を考えると、リラックスしてもらえる場を提供する方が、顧客満足につながりそう。(完成度がどうこうといった観点でのクレームは受けなかった。)
・言葉や解説そのものよりも、スタッフの態度、身振り手振り、表情の方を覚えているもの。あのパビリオン、スタッフがイキイキしていたなぁ、親切・丁寧に対応してくれたなぁ、というのが届けばそれはそれで成功。

 過去月のパビリオンもご存じの、あるお客様から「他の団体は同じような印象だが、ここは違うね」とのお言葉をいただいた。テーマ的な重複がないことや、単なる環境団体でなく、国際交流面(しかも東アジア中心)+情報交流面がウリということをご理解いただいたようで、何よりである。

  • 気を付けた点

・とにかく市民村のパビリオンはハコモノではないはず。仕込み過ぎていないか、自分たちの想定を客に押し付けていないか、のチェックが必要。お客の意図とのギャップが大きいとスタッフの負担や無理も蓄積する。
・苦労してやっている、という印象があると、同情はされても、本来の意図は伝わりにくいと思われる。
・話の聞き役を求めてくるお客にとっての受け皿になり得るかどうかもポイント。
・参加したというリアリティ、自分で何かを得たという達成感、がカギ。
など。

  • 課題

・一定の情報は伝えるが、「じゃあどうすれば?」など、次のアクションに結びつける具体的な情報が不足気味。(地球市民村リピーターの方々にとっては物足りない面はあった。)
⇒まずは、「知る」「伝える」ことの重要性を説くことを優先した結果ではある。

・緩やかな展開、そしてLIVE感重視となると、より明確な共有物(アウトプット)が必要になる。
⇒スタッフの持ち味重視で臨んだため、統一的なまとめにはあまり力を入れていなかった。お客さんに持ち帰ってもらうものが、その都度多様になっていた可能性がある。


4. こんなやりとりがあった

 いろいろなやりとりや対話があってこそ、パビリオンは息づくもの。筆者が応対した範囲では、以下のような例が挙げられる。

・東アジアを代表する生物種のいくつかについて、「絶滅してしまってもいいのでは?」の質問あり。生物の多様性を確保することは、地球上の豊かさ、ひいては人が生きる上での豊かさにもつながることを説明し、納得していただいた。
・人間が存在することがそもそもの元凶、という強硬論もあった。
・対馬に行って漂着ゴミを見たことのある人、チベットレイヨウの話を聞いて中国語で質問する人、黄河の水域の経済性(黄河の水が日本の海域に与える影響等)を研究されている人などもいらっしゃった。
・絶滅危惧とはどんな基準(数)や根拠に基づくのか、といった高度な質問も。
・京都議定書の内容を質問するお子さんも現れた。
・割り箸文化を否定してほしくないというご意見をいただいた。国産材の割り箸であることが明示されたものであれば、それは積極的に使うべき、などとお答えし、承服していただいた。
・オオタカを守る意味がよくわからなかった、という質問に対しては、生態系の頂点を象徴する猛禽類の存在は、そこに裾野が広い生態があることを意味するため、より重い環境保全の必要性を示す、といった解説をさせていただいた。
・NGOとNPOの違い、NGO/NPOでの働き方や生活観についても聞かれた。驚いたが、ありのままを話させていただき、こちらとしてもありがたかった。

 とにかく、お客様あってのパビリオン、ということが実感できた次第。お客様から学んだことが多々あり、またどういう情報を求められているのかを窺い知ることができたのも収穫だろう。


5. 「愛知万博」モノローグ

 万博会場入りした日数は、4/1、7/31〜8/5、8/22、8/31〜9/5、9/7〜11、9/13〜15、9/17〜26の32日間に上る。会期は185日だったから、6分の1は万博に通ったことになる。

 しかしながら、自由な見学ができたのは、4/1、8/22の2日くらい。一般客として入場してノビノビできたのは、9/22に休みをもらい、夜間割引入場券で入り直した時のみ。(この日は妻が朝から来場。)

JR東海パビリオン(中央)とIMTS(手前) 企業パビリオンはJR東海のリニアモーターカーの屋外展示程度で、いわゆるハコモノパビリオンへの入館はゼロ。ただし、企業パビリオンゾーンAは、地球市民村に行く途中にあったので、外観だけはたっぷり見させてもらった。(まぁ好評だったパビリオンは、いずれどこかで再会できるだろう、とタカを括っているが。)

 海外パビリオンは、グローバルコモンの[]、[]を4/1に廻れた程度で、[]は9/22の夜に一部を見学、[]は9/22の21時以降(閉館後)に廻り、[]は、スタッフ専用ゲートから地球市民村に向かう途中に散策した程度、[]は結局、南太平洋共同館に打合せで寄っただけ、という状況。せっかくの万国博覧会なのに、何とも無念。

ロボットインフォメーション マスコミが騒ぎ立てていた、マンモス関係、名物ロボット、各種アトラクション等も無縁。北ゲートにあるロボットインフォメーションが動いている時に何度か通りがかれたのがせめてもの救いか。

 EXPOエコマネーも辛うじて体験できた。(9/22の閉館前に訪れ、仕掛けを理解し、最終日の休憩時間にポイントを引換。)

ポイントで交換できるものは? 地球市民村に出入りする度にポイントを加算していたら、楽々50ポイントに達していたと思われるが、それをやってしまっては権利濫用。結局、一般客として立ち寄った9/22に来村ポイントとして2ポイントを加えたのみ。それでも、買い物袋持参時に押してもらうポイントカードが、イオン、イトーヨーカ堂、西友とそろっていた(妻のサポートあり)ので、これをうまく交換し、40ポイント分のエコバッグをいただいた。日頃のマイバッグ努力が形になって実った訳で、感慨深かった。

手前が地球市民村パビリオン 9/22は日没前後、混み合う前に観覧車に乗れたのも良かった。乗り込んだ時にはすでに夜景モードだったが、今回の舞台「地球市民村」を眼下に見渡せたのがまた趣深かった。

 会場内の有料交通機関では、IMTSに一度だけ乗車する機会を得た程度。無人走行がウリだが、運転席にはモリゾーが座っていて、余興たっぷり。車窓を楽しむには物足りないが、乗り心地は良かった。

 長久手と瀬戸の会場間を結ぶモリゾーゴンドラと燃料電池バスに乗れたのもちょっとした土産話。

キッコロゴンドラにて 会期中に乗り損なって悔いが残ったのは、長久手会場を縦断するキッコロゴンドラ。諦めていたが、何と閉幕後の9/26、撤収作業を終えて、会場を後にしようとしたら、キッコロゴンドラが動いているのを見てビックリ。通常600円のところ、この日はスタッフ向けサービスか、フリーで乗車できて、なおハッピー。立ち寄ることのなかった森林体感ゾーンなどを見晴らせた上、バイオラングや愛・地球広場などを上から眺望でき、大満足。これで余念も晴れた。粋な計らいに心から感謝感謝である。

グローバルループ(中央の舗装部分が特徴)とドライミスト

西ゲート脇の太陽光発電パネル群

 環境博覧会という側面で言えば、会場のどこに環境配慮がなされているかを検証することが少なからずできたのは成果だろう。地球市民村に向かう途中、ちょっとでも時間があればエコブックを片手に、セルフガイドツアー三昧。グローバルループの廃木材+廃プラスチック材、西ゲート付近の大規模太陽光発電パネルの他、ドライミスト、万博アメダス、多様な分別パターンのごみ箱ステーションなど、見て・感じて・学んで、ができた。(詳しくは、こちら) ただし、展示型イベントにおける環境配慮については、12月恒例「エコプロダクツ」の方がぐっとわかりやすい感じ。

 9月前半は、気温が高めで、会場入りするまで汗汗の日々。会場に着いても、ゲートから地球市民村までの道程がまたそれなりなので、さらに汗。そのおかげか、体重のReduceに成功。逆に今ではReboundに警戒しながら、食欲の秋と対峙している状況である。


6. まとめ

 *Eメールで関係各位に発信した中から、編集しました。

 万博は、従来型の成長前提志向がある一方で、そうでない面もオーバーラップしてきている印象を受けます。従来型を良しとする人は物見遊山タイプでいいんでしょうけど、会場に足を運んでみて、動員型イベント(もっともっと型)のあり方に疑問を持たれる方も少なからず現れているようなので、その点では悪くないかも知れません。

 いわゆる市民団体と博覧会協会が一緒に万博を創るという点でも今回は実験的(歴史的)ですが、もちろん万博賛美ばかりではありません。出展する(現場に入る)ことで、あえて辛口な部分も発信できれば、という意気でこちらは臨むつもりです。市民団体が万博で何をしようとしているかを見る、というのも今回の一つの見所になりそうですね。

8月にお手伝いしたパビリオンでの中京テレビの取材の様子。(漂着ライターの展示なのに、浜辺での花火の名残だとか当てずっぽうなことを言ってたような。) ご存じの通り、マスコミは絵になる部分、大衆ウケするような部分しか報じません。でも自分自身の情報価値に基づいて、光の当たらない出展にあえて足を運ぶ人達(多様な楽しみ方を試みる来場者)も大勢いらっしゃいます。(少なくとも地球市民村には真摯な方々が少なからず来ます。) マスコミの流す情報の虚実を確かめる、というのも楽しみ方の一つ。そして、メジャーじゃない部分を自分なりにアレンジして楽しむ(つまり自分自身がメディアになる)、というのも一興だったと思います。

 さて、終わってしまうと日常というのは残酷なもので、パビリオンでの日々を昔のことのように遠く追いやってしまうもんだなぁと感じています。万博が非日常の世界だったことの証しなんでしょうけど、しかし本来なら、今回のような「場の持つ力」を体験できることが、もっと日常にあふれていてもいいのではないかと思ったりもします。

 東京に帰って来て、いかに日常が淡々としているものかを痛感しました。お客が少ない店などを見ていると、寂しくなってしまいます。お客さんの出入りが多いというのは、それだけで活気や元気の素になるんですね。しかも幾多あるゾーンや見所の中から、地球市民村を選んで来ていただく方々というのは、やはり総じて良質な人が多い訳で、それがまた、よりイキイキとした空気を運んでくるのではないかと思いました。

 言葉の影響力についても考えさせられることがありました。9/26の夜、高速バスで東京駅に着いたまではよかったのですが、東京から中央線に乗って新宿に向かう途中、電車内の会話を聞いていて、ウンザリでした。本人にとっては何気ないつもりでも攻撃的・悲観的な言葉が多いと、聞いている第三者は疲弊します。このように感じたのはおそらく、地球市民村やパビリオンで交わされ、満たされていた言葉にイイものが多く、いつの間にかそれに慣れ、癒されていたためではないかと思いました。

 都市生活において、どんな言葉があふれ、それが人にどういう影響を与えているか、検証してみるのもいいかも知れません。まずは自分から、言葉の持つ重みや影響力をじっくり考えながら「発伝」することが重要でしょうね。(できれば、よりイイ言葉や情報を常に発信したいものだ、と思います。)

 21世紀最初、そして日本では当分行われないであろう万博に、出展者として関わり、参加できたことに深い意義と感謝を覚えます。(ただし、今回の地球市民村では、「ここに集まり、何かが起きた」ということをシェアできれば十分かな、と。) ご来館者の皆様、関係各位&スタッフの皆さん、どうもありがとうございました!


*ここに書き切れなかった、その他の小話については、追々「地球市民村blog(筆者ページ)に掲載していきます。お楽しみに。(小話シリーズ:#1 「愛・地球博ボランティアセンター」#2 リニモの持続可能性#3 台風14号 ほか)


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