第85話 清掃工場見学記(2001.3.15)
赤羽岩淵と王子を結ぶ北本通り(きたほんどおり)沿い、地下鉄南北線 志茂駅の程近くに、北区の清掃工場(といっても板橋区・足立区の分も処理しているが)がある。3年前に竣工して、何となく気にはなっていたものの、見学しようという気にまではなかなかならなかった。久々に目を通した区報に見学会の案内が出ていたので、妻君の後押しもあり、見学会に行くことにした。10年以上前、砧公園の一角にある世田谷清掃工場に行って以来の清掃工場である。比較的新しい清掃工場なので、さぞよくできているのだろう、と思って見に行ったら、案の定よくできた建造物だった。分別が徹底してきたこともあるだろうが、とにかく高熱処理と処理結果(空気・灰・水...)のクリーン化(後述の3.4.の処理の比重が高まり、清掃工場に占める公害対策設備が大きくなっているとのこと)が行き届いていて、感心しきり。これではかえって見学会に参加した人程、安心してしまって、ゴミの出し方がルーズになってしまうのではないか、と危惧してしまう。見学会に出たからには、意識が啓発されて然るべきだが、清掃工場側の説明も、その処理の周到さを説くものが中心で、清掃工場の課題やゴミに関する注意等についての話がなかったような気がする。この日の参加者の方々はたまたまなのか、もともとなのかは知らず、意識の高い方が多かったので、ためになる話を引き出してもらえてよかったのだが、受け身で説明を聞くばかりではあまりためにならなかっただろう。
ビデオ説明、(各設備のモニターカメラからの)リアルタイム映像による解説、見学コースに沿ったガイドという構成で、なかなか充実した1時間半程の見学会である。せっかくいろいろ見聞きしてきたので、ゴミ処理の流れに沿って、ざっとおさらいしてみよう。(現場を見学できた箇所は●。直に目にできるのはごく限られているのである。)
1.受け入れ
●【1】収集車到着、ごみ自動計量、エアカーテン
どこの管轄の収集車が何時何分に来て、どのくらいのゴミを運んできたか、コンピュータ処理される。同時に、外部にゴミの臭気が流出しないよう、入口にあるエアカーテンで脱臭される。
●【2】ごみバンカ
収集車が直接焼却炉に入れていた時代もあったが、今はこのごみバンカで一時ストックしてから、以下【3】【4】のプロセスを経て、焼却炉に運ばれる。
●【3】ごみクレーン
【2】にたまったゴミをこのクレーン(直径5m)で攪拌しながら持ち上げ、次の(4)ごみホッパに投入。クレーンの1回あたりの持ち上げ量は何と4トン。紙屑や端材等の可燃ゴミゆえ、もともと軽量のゴミを扱う訳だが、たくさん持ち上げるとかなりの重量になることがわかる。仮にこのクレーンで、重さのある細かいゴミを集めて持ち上げたらいったい何トンまで耐えられるのだろうか。
ちなみに、攪拌が欠かせないのは、家庭ゴミと事業ゴミとで成分(構成)が異なるので、できるだけ均一化して燃焼させやすくするため、であった。同じ収集車でも周回する地区によって、家庭 対 事業の比率にかなり差が出るということだ。つまり、ある収集車は家庭ゴミを多く出し、またある収集車は事業ゴミを多く出す。【2】は攪拌しないと家庭ゾーンと事業ゾーンに色分けできてしまうのである。(下:【2】|中央:【3】|右:【4】)
●【4】ごみホッパ
焼却炉にゴミを投入する入口にあたる。焼却炉からの排熱等が【2】に漏れ出ないように、ゴミそのものでブロックする構造になっている。通常は【4】へのゴミ投入量は自動調節される。
2.燃焼
【5】焼却炉・燃焼装置
清掃工場の建物本体の高さを抑えるため、【2】もそうだが、この焼却炉の部分も地階に造られている。【2】は吹き抜け構造なので見学できたが、燃焼装置の部分は地階に閉ざされた位置にあるため、見学できない。ビデオの説明で見た限りだが、何でも「固定火格子」と「移動火格子」という装置の組み合わせで、投入されたゴミが回転しながら焼却されるということだった。
燃焼用空気が絶えず供給されるので、火力は強く、800〜950℃を常に維持している。この日の説明で唯一ダイオキシンという言葉が出たのは、この部分である。(この高温であればダイオキシンは無害レベルに焼却される、という程度の説明) 不燃物や可燃不適物が全体の1割程は混ざってしまうという実状からも、完全燃焼と言い切れないのだろう。ダイオキシン向けの対策として活性炭も併用しているとのことで、0.00033ナノグラム−TEQ/m3Nに抑えているというからそれを信じるばかりである。
*ここからは通し番号を振るにはあまりに複雑なので、主な流れのみ書き綴る。
3.排気処理
焼却時の排気は、ボイラを循環して、240℃まで減温される。その後、濾過式集塵機(バグフィルタ)で、塩化水素とSOxは消石灰特殊反応助剤で、NOxはアンモニアガスで処理される。(ボイラから先、ガスタービン発電、余熱利用設備等につながるが、詳細は省く。)
4.飛灰
集塵機を通った飛灰は、重金属などが取り除かれた後、誘引ファンを経由して、冷却吸収減温塔に送られる。ここで55℃まで温度が下げられ、今度は脱硝反応塔で再加熱されてNOxが除去される。ここまで来てはじめて、煙突からクリーンな状態で排気される、という訳だ。
焼却後に残った灰の方は、灰コンベア→灰冷却水槽→灰バンカ→灰クレーン→...と【2】〜【4】のようなプロセスを経て、灰運搬車に積載される。灰はご存じの通り、(破砕・選別後の)不燃ゴミと同じ埋立処分場へ運ばれるのである。この灰を埋め立てに回さなくても済むよう、溶融灰スラグにして建設資材等に転用する取り組みも進んでいるようだ。
最後に気が付いたことをいくつか...
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都内の清掃工場の中では比較的狭い敷地に建っているので、日量600トンの焼却炉が1基というシンプルなもの。2基(例:300トン×2)あれば、片方をメンテしても、もう片方が稼動できるので、清掃工場全体としての維持がしやすく望ましいと話していたが、ここ北清掃工場のように1基だけだと、メンテする際、清掃工場を全面的に停止しなければならないため、いろいろ不具合がありそうだ。
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2月は第83話でも書いた「ニッパチ」のせいか、ゴミ量も少なかったそうだが、3月になり、年度末近くになると俄然量が増えてきて、この日は4000トンがストック(処理待ち)状態だった。たまり過ぎると、クレーンの操作を自動化(ごみホッパへの投入量の自動調整含む)できないため、手動でクレーンを操作すると言う。実際の現場を見ている中で、その説明が実に淡々としたものだったので、余計に驚いた。ここは一つゴミ出し(発生)抑制を喚起するのに絶好の場面だと言うのに。
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底にたまったゴミはどうなるのか尋ねたら、一生処理されないだろう、などという不穏当な答えが返ってきた。清掃工場のゴミは先入れ先出しではなく、先入れ後出しである。新着のゴミはさっさと処理されるが、処理能力が間に合わない場合は、古いゴミがどんどん下に埋もれてしまい、言わば化石化の道をたどる。洗濯槽のように、底部にスクリューだか攪拌装置のようなものがあればいいのだろうが、唯一、攪拌の役目を果たすクレーンの腕が、特に底部の隅には届かない設計になっているため、隅っこの下の方のゴミはそのままになってしまうのである。良からぬ化学反応やら醗酵やらが起こり、底面を侵食し、地下水汚染とかにつながらなければいいのだが、要らぬ心配だろうか。
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とにかくいくら清掃工場が立派でも、ゴミを元から断つ・減らす努力が欠かせないことは言うまでもない。可燃ゴミの灰、そして処理後の不燃ゴミが埋立処分場に向う図式は変わらない訳だから、埋立処分場が満杯になる(埋立が不可能になる)日がいつかは来ることをふだんから思い起こして、ゴミの出ない(資源を循環させる)生活を心したいものである。 |