第109話 私鉄特急(2002.3.15)
第109話である。シャレのつもりではないのだが、今回はトッキュウがテーマである。(いっそ、東急に絞ってもよかったのだが、そこまで担ぐ気もないし...)
第86話の文末で予告して以来、何だかんだで1年経ってしまった。久々の鉄道ネタだが、特急だ急行だ、という種別の話は実に第41話以来である。満を持しての話題だが、気負うとまた長くなってしまいそうなので、今回は首都圏の私鉄4社に限ることとする。
小田急線はご存じ、ロマンスカーに代表される有料特急が走っているが、有料特急という割には、少なくとも新宿から成城学園前を越えるまでの23区内の間は何だかゆっくりなので損した気持ちになってしまうのが難点。ラッシュ時にも飄々と走っているもんだから、ロマンスカー通勤客にはいいけれど、普通の客には足止め要因と映るため、印象がよろしくない。代々木八幡から祖師谷大蔵に帰る人がいるとする。各駅停車しか乗れないだろうから、通過待避駅である東北沢と経堂でロマンスカーが走り去っていくのをじっと待つケースが生じる。高速で通過してくれればいいのだが、マッタリと走っていくので耐え難いだろうと思ってしまうのだ。(もっとも各駅停車はラッシュ時でもあまり混まないだろうから、それほど気にならないかも知れない。) それよりも、これが満員の急行電車で、向ヶ丘遊園に停車中の場合だったらどうだろう。これまたマッタリとロマンスカーが通過していくのである。乗客の心情は察するに余りある。
特急が終点に着くまでの時間は確かに短縮されているのだが、都内では速度が落ちてしまうのは致し方ないのだろうか。...週末温泉特急を走らせて以来、小田急線は特急電車を花形看板にして、着実にブランドを確立していった。学園都市や高級住宅街の開発もあって、小田急人気は高まる一方だったが、沿線人口の急増に追いつかないまま、21世紀に入ってしまった観がある。ブランド先行で、本来の輸送サービスが後手に回ってしまったことは、今なお工事中の複々線工事(しかも係争中)に現われている。先見の明があった関西の私鉄各社などは、市街地を走る部分をかなり早い時機に複々線化し、沿線人口の増加(ラッシュの緩和)に先手を打っている。首都圏の私鉄で複々線化を達成しているのは東武伊勢崎線くらいで、あとは地下鉄との直通や新しい路線の分岐(最近では東急目黒線の経路変更など(第74話))でしのいでいる状況である。小田急線も代々木上原からの千代田線分岐を計ったが、抜本的な解決にはならなかったようだ。複々線化の遅れ→スピード感のなさ・慢性的な混雑、によってせっかくのイメージが低下しているような気がしてならない。複々線化が求められてからの歳月が長いだけに、小田急線のこの遅れは他線に比べて特に深刻だと思う。
複々線が早期にできていれば、急行も特急も、名の通りの然るべきスピードが出せていただろう。ブランドとサービスの両方をバランスよく向上させることの難しさを感じてしまうのであった。
特急という名称は一つでもそのパターン(呼称)の豊富さは小田急ならでは。ただでさえ停車駅を間違えそうな優等列車が多いのに、3月23日のダイヤ改正では、「湘南急行」と称する快速急行、そして急行の新種「多摩急行」なるものがお目見えするそうな。湘南急行は、第41話で格上げ事例として紹介した中央林間と湘南台に停車し、従来からの既得権急行停車駅である南林間、長後は通過するということだ。既得権を保ちながら、現実的なニーズを満たす。快挙だが、苦肉の策ともとれる。新宿〜成城学園前の間はスピードダウンしてしまうんだろうけど。
話は変わるが、かつての小田急人気を支えていた向ヶ丘遊園が75年の歴史を終え、3月いっぱいで閉園になってしまうとのこと、寂しい限りである。遊園地がなくなってしまうとなれば、行楽客向けに特急を停める必要もなくなるだろうから、ここんとこ特急停車駅を増やしていた傾向とは逆行する珍しいケースになりそうだ。(これまではサポート号(旧さがみ号など)が停車) 筆者にとって向ヶ丘遊園は、幼少時に何回か行ったことと、ある時は向ヶ丘遊園駅にいながら、遊園地に行かず、わざわざ、→登戸−(南武線)→川崎−(東海道線)→横浜−(相鉄)→大和−(小田急)→向ヶ丘遊園のルートで小旅行をせがんだ、という想い出の場所である。(これは筆者5才頃のエピソード。この程度なら路線図を暗記していた訳である。)
首都圏を走る有料特急のうち、遊園地などの人工行楽地に特急を停めているのは、よくよく調べたらこの向ヶ丘遊園の小田急程度だった。東武伊勢崎線は東武動物公園があるが特急は停まらないし、西武特急はとしまえんにも西武園にも行かない。多摩センターにはサンリオピューロランドがあって、小田急は特急が停まるが、別にレジャー客の便宜を図って停車する訳ではない。もともと遊園地と駅を結びつけて、行楽用に鉄道需要を盛り上げよう、というのはマイナーな発想だったのだろう。(昔に溯れば、例えば京王閣、多摩川園、二子玉川園などはあったが、やはり鉄道需要とは無関係だったのだろうか?) だが、小田急は違った。鉄道需要と行楽を連結させていたのである。向ヶ丘遊園にロマンスカーが停まらなくなった時点で、小田急の特急の概念がまた変わる訳だ。(ちなみに小田急線には、読売ランド前駅もあるが、駅名に反してちっとも「前」でないせいか、ここは急行も停まらない。)
小田急が華やかだったのと対称的に、京王は地味な存在だったようだ。温泉や海水浴場がない分、明らかに不利だった訳で、加えて、京王新宿駅が伊勢丹の方にあった頃の市電の延長のようなイメージがなかなか抜けなかったそうである(その筋の本にそう記されている)。しかし、高尾へのハイキング客を開拓したあたりから、特急も走り出し、競馬場や動物園を足がかりに着実に客層を広げていったようである。イメージアップのスピードが緩やかだったせいか、沿線人口の増え方も安定的だったのだろう。じっくり輸送サービスの向上に取り組むことができた成果が現われていると思う。京王特急は無料な上、とにかく速い。沿線のイメージは小田急ほどではないかも知れないが、この「特急らしい特急」は魅力だし、複々線化をせずにラッシュ緩和(しかも運賃値下げも)を成し遂げた力量は立派なブランドであり、ステイタスにつながると思う。小田急よりも京王の方が好感が持てる筆者である。
もうすぐデビューして1年になる準特急もなかなかイイ味を出している。通常なら急行の格上は快速急行になるところだが、日本初の呼称「準特急」としたところに、京王線のこだわりを感じる。特急の速さが京王線の売りだから、その特急イメージを持ってもらえば「速くて快適だからぜひ利用しよう」となり、固定客が得られるということなんだろう。明大前から分倍河原に行く用事があった時に乗車したが、実に心地よかった。
東横線を使って通勤していた頃、渋谷〜自由が丘の間を1駅飛びの等間隔で停まる「急行」のテンポがどうもしっくり来なかった。距離は短いかも知れないが、走る・停まるの回数が多いのは罪なもので、扉の開閉音や発車の合図にいちいち反応してしまうのが嫌で仕方なかったのである。渋谷を出たら、自由が丘・武蔵小杉・菊名・横浜だけ停まる快速急行とかがあればいいのに、なんて思っていたら、東横線通勤を終えて2年余り経って、2001年3月28日、東横線に特急がデビューしてしまった。筆者が考えていたのと停車駅が全く同じだったので喜々としたものだ。「東京モノローグ」ゆえ、横浜ネタが出てこないので、特急乗車レポートも載せる機会がなかったが、この1年、東横線に乗る用事がある時は必ず特急、という贔屓ぶりである。特急と言っても、全体的には小田急線よりも緩慢な走りっぷりだし、時間的にも急行と大差ないのだが、やはり扉の開閉等、音が減ることによる快適感は代え難い。JRの湘南新宿ラインへの先行対抗策だったようだが、利用客の棲み分けもできているようだし、上々だと思う。(ちなみに、渋谷〜横浜で比較すると、時間は27分で同じ。運賃は、湘南新宿:380円 × 東横特急:260円になる。) 横浜から「みなとみらい線」への乗り入れが始まると特急停車駅がどうなるのかがポイントだが、横浜からいきなり元町までノンストップということは考えにくいし、おそらく各駅停車になってしまうものと予想される。
東急もう一つの長距離路線である田園都市線にも特急が走ってて良さそうだが、終点の中央林間が都市中心部でないのがネック。中央林間が大和くらいの駅だったらあり得るかも知れない。渋谷からの停車駅は、二子玉川、溝の口、あざみ野(または青葉台)、長津田、中央林間といったところか。
特急の上の列車が無料で乗れるのは京急をおいて他にない。快速特急(快特)という呼び名は実に響きがよく、その速さを想い起こすのに相応しいと思う。小学校低学年の頃、油壷へ家族で旅行した際、品川から三崎口まで初めて乗った快速特急には本当に感動した。(目的地である城ガ島大橋とか海岸とかは二の次だった。) 当時、私鉄特急でなじみがあったのは、まだ小田急線と東武東上線くらいだった筆者にとって、この快速特急の異常な速さは身の毛がよだつ体験だった。蒲田あたりをビュービュー(実際に聞こえた)鳴らしながら走る様、その時の流れるような車窓の光景、実によく憶えている。乗車する時に、指定券だか特急券だかを買っていたように記憶しているのだが、どの本を見ても快特は昔から無料?のようである。(改札を入ってから別の窓口で買っていたのは何だったんだろう。) その日の帰りは、惜しくも快特を逃してしまい、次の「単なる特急」に乗ったが、このあまりの遅さ(停車駅の多さ)に子どもながらガッカリしたのもついでに憶えている。
という訳で、首都圏私鉄の無料特急で誇るべきはこの京急快特だろう。快特の存在が京急のイメージアップにつながっていることは言うまでもないし、快特ファンはきっと大勢いると思う。しかし、私鉄の哀しいところは、JRの種別との名称格差が大きいこと。品川〜横浜の競合区間をJRと京急で比較すると、
京浜東北線(各駅停車) |
大井町 大森 蒲田 川崎 鶴見 新子安 東神奈川 |
京急(特急) |
青物横丁 平和島 蒲田 川崎 神奈川新町 |
東海道線(普通) |
品川 川崎 横浜 |
京急(快特) |
品川 蒲田 川崎 横浜 |
となり、快特と言っても、JRに置き換えるとなんと普通と同じ停車駅になってしまうのである。もっとも、蒲田から先は、京急も普通、特急、快特の3つの種別しかないので、格差が大きいというよりも、京急の種別が極端になってしまっただけとも言える。(係長の上がいきなり部長みたいなものである。) 快特のイメージで成り立っている面が大きいから容易に呼称を変えられないのはわかるが、現在の品川〜羽田空港を結ぶ急行は「空港快速」にして、特急は急行、快特は特急、そして通勤用のウィング号を「快特ウィング号」にすれば、蒲田以南の種別も、普通、急行、特急になり、しっくり来ると思うのだが、どうだろう?
さてさて、結局長文になってしまったが、いささか消化不良である。今度は首都圏私鉄に限らず、特急電車のあるべき姿・然るべき停車駅などについて考えてみようと思う。
・種別が一番多い
西武池袋線:各駅から特急まで10種類 |
・行先によって呼称が変わる
能勢電鉄:日出エクスプレス、妙見急行 など |
・各駅の上がいきなり特急
山陽電鉄:各駅、S特急、特急、直通特急の4種類 |
・快速といっても侮れない
東武伊勢崎線:北千住の次は春日部まで停まらない!(17駅 約28km通過) |
・なじみが薄い呼称(京王線 準特急以外)
近鉄名古屋線・大阪線:区間快速急行
山陽電鉄:S特急
神戸電鉄:特快速 |
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