第356話 西日暮里の不思議(2012.7.1)
山手線の駅の中では今のところ最新、山手線の駅名で唯一方角を冠する、山手線・京浜東北線の駅間距離で最短区間の一つ...と山手線に関する分だけでもいろいろあるのが「西日暮里」である。今は通勤経路上にあるので、いつでも乗り降りでき、ふとしたことで「!」とか「?」とかがあると、それが連鎖するように次々と感嘆や疑問が深まり、すっかり「西日暮里っていったい・・・」な状態に。筆者的には話題に事欠かない西日暮里。ここ何ヶ月かの成果をご紹介する。
JR西日暮里駅のホーム下を東西に走るのが道灌山通り。田端方面のホームに立ち、西側を臨んだ時、右手にあるのが狭義の道灌山(かつての秋田藩主佐竹氏の抱え屋敷のうち高台部分)で、左手にあるのが西日暮里公園(かつての青雲寺)。どちらもよく見ると急峻な感じで、その崖がまた特徴的。JRの線路側が海だったという太古の頃から、この高さを保っていた筈なので、威厳があるのは当然だが、問題はその植生である。
道灌山通りから道灌山を見上げる |
「荒川区まちあるきマップ」などでは、道灌山通りの南側に「●道灌山」と入れてあるが、北側も含めて道灌山(むしろ北側)であることは心したい。 |
道灌山の方は江戸期は薬草の産地とされたが、道灌山通りから見上げる限り、その面影なく、対する西日暮里公園の方は昔の植生を今に伝える貴重な植物などが辛うじて息づいている、そんな状況。
「都市に自然を回復するには」(野村圭佑著、2004年)のp.216〜218に、西日暮里公園における荒川区の茶番が綴られている。また何かやってくれそうな予感がなくもないが、それ以前にどうもこの弱った感じが気になる。道路側、北斜面である。一方、京浜東北線側、つまり東斜面については、雑木林を髣髴とさせる自然が残っているが、ある程度手入れが必要だとすると、これは放置モードと映る。北も東も手抜き? 荒川区の自然や緑地に対する意識の程が窺える一例である。
参考:「公園・緑地、緑被率」・・・荒川区の緑被率に注目
西日暮里公園の道灌山通りに面した崖部分。赤テープは保存樹木の印か、それとも・・・ |
東斜面の田端寄りは多少手入れがされているが... |
同じく東斜面の日暮里側は粗放な印象 |
高台にある西日暮里公園に入り、日暮里側に歩き進んで公園を抜けると「諏方神社」に出る。標高はあるので、境内から線路側を望むと結構な眺望が得られ、当然、列車の数々もよく見ることができる。車両を横から見るシーンが多くなるが、常磐線以外は全て視野に入るため、ちょっとした穴場と言える。日暮里・舎人ライナー、京成本線、宇都宮・高崎線、新幹線、京浜東北・山手線が一望できる場所はそう多くはない。
左側の緑、5月半ばは漠然とした感じだったが... ↓ |
日暮里側はこのように見渡せる(京成日暮里駅も至近) |
6月下旬には紫陽花が見頃に |
少々わかりにくいが、奥を京成線が走る |
神社は「諏方」だが、展望地の名称は「諏訪台」。歌川広重の「江戸名所百景」にも描かれていて、「日暮里諏訪の薹」の題で見ることができる。遠く筑波山の姿があるが、今は望むべくもない。境内は変わらず、景観が変わった、ということになる。
変わらないものとしては、崖の緑、諏訪坂と称する石段もだろう。ただ、この坂は、下った先がJRのガード下になり、自ずと西日暮里駅の東側に出るようになっているのが妙味。神社の下や西日暮里公園の脇、つまり西日暮里駅の西側には出られないのである。
さらに不思議なのは「諏訪坂ガード」である。ガードを出た片側が石段、もう片側は駐輪スペースなどがある上に車両通行止めになっているのに「自動車等が衝突したのを見た方は」云々の掲示がされているのは「?」の極み。が、その答えはガードの途中にある。JR東日本所有の「緊急自動車」の出入口があり、何かあったら車両がここを通る!ことがわかってしまった。考え得るのは、緊急自動車が勢い余ってガードに衝突、ということになるが、それはあまりに滑稽というもの。「ガードがガードにならず、緊急自動車自体が緊急事態に?!」・・・笑えない。
ガードから諏訪坂を見る(掲示にご注目) |
線路の下に緊急自動車の出入口! |
諏方神社から諏訪台通りに出て、少し南に行くと右手に富士見坂が現れる。ここを通ることはあっても、これまで富士山を拝めたことはないが、とにかく富士の左側が隠れるようになって久しく、今度は山頂を含め、大部分が見えなくなってしまう可能性があるというから穏やかでない。当地で最後になるかも知れないダイヤモンド富士については、今年の1月29日〜31日の話ですでに過去形だが、記事で参照はできる。(→例1、例2)
ダイヤモンドでなくていいから、とにかく富士山は見えるうちに見ておこうと思う。
富士見坂を下ってウロウロすれば、どこかしらで「よみせ通り」に出られる(と思われる)。
西日暮里駅からそれなりに距離があり、荒川区西日暮里からも外れてしまうのだが、「当駅から徒歩5分 よみせ通り商店街!!」はまぁいいとして、この「わくわく大感謝祭」の案内に地図が伴っていないのはどうかと思った。せめて矢印一つ加えれば随分違うのに... (第349話の谷中編でここを通っていたので、特に問題なかったが、NREの鉄道グッズ売店を目当てに西日暮里にやって来たテツな方々は迷っただろうと思う。)
よみせ通りは何処にある? |
人通りは多いが、NREブースはいま一つ? (駅からの誘導に課題あり) |
諏訪坂ガードを出て、西日暮里駅の東口に向かうには、この「ルートにっぽり」を通ることになる。通りの名称も異色だが、沿道のお店も一風変わっていて、似たような店が二段構えになっているのを続けて見ることができる。一階がスペイン居酒屋、二階がスペイン料理というのが一つ。もう一つは写真の通り、「居酒屋大将」+「もてなしや将」である。
日暮里〜西日暮里の間は、ルートにっぽりに並行するように尾久橋通りが通る。日暮里・舎人ライナーがその上を走るため、遠くからでもその位置がわかるようになった。諏訪坂方面からライナーを目印に尾久橋通りにアクセスすると、ライナーと通りが為す階層の間を京成本線がすり抜けるポイントに出る。そこには都バスの停留所「西日暮里駅前」があり、真に受けると「京成線の西日暮里駅? どこ?」となりかねない。JRからは少し距離があり、ライナーの西日暮里駅は少し北に行った西日暮里五丁目交差点のさらに先なので、駅前とは言い難い。何とも紛らわしい駅前である。加えて「西日暮里駅前郵便局」もその近くに位置する。
スカイライナーの上を日暮里・舎人ライナーが通ることも十分あり得る |
西日暮里五丁目の陸橋から見た京成本線(下は道灌山通り)。かつてはここに京成版の西日暮里駅があったことになる。 |
京成線に駅があれば問題なさそうだが、かつては存在したのをなくしている経緯があるため、再設置されることはおそらくないだろう。その駅とは、「道灌山通駅」である。1934年開設、1947年廃止という歴史の浅い駅だった。
西日暮里五丁目交差点の裏手にその古めかしさゆえに目立つ雑居ビルがあり、しかもその店名の出し方がなかなかなので、取り上げることにした。目で見る分には間違えることはないが、続けて声に出すと、「求む 土地・建物・癒し空間・オアシス」となり、その不動産屋は何を仲介しているのか?という疑念を抱くことになる。こうした例、他にもまだまだありそうだ。
道灌山通りの方は「日暮里道踏切」で常磐貨物線と交差しているが、尾久橋通りの方は踏切ではなく、アンダーパス。それほど頻度が高い訳ではないが、一度来るとやたら長〜いことがあるのが貨物列車ゆえ、こうしたのだろう。大雨時は、冠水する可能性がある旨、標示が出ているのがまた悩ましい。
ともあれ、幹線道路、貨物線、新交通が三段構造になっている場所は、都区内広しと言えど、ここくらいと思われる。
→ 片瀬道踏切から三河島方面を撮影。ライナーの下の下が尾久橋通り、になる。
常磐貨物線目当ての撮り鉄各位は目立つが、他にも路線が入り混じって複雑な感じになっている割にはあまり「撮り」や「録り」を見かけない不思議はある。特に、西日暮里駅から田端駅に通じる細道は、間近で東北線や新幹線を撮るには格好の場。構図の具合とか物足りない面があるのかも知れないが、誰かしらいてもよさそうな...と思う。
平日の帰途、とにかく歩いてみた。E5系に北斗星に、おまけにスカイツリーも撮ることができ上々。ただ、穴場的な面が禍となり、喫煙歩行者が多いのがただただ不可ない。
左:新幹線、右:東北線(宇都宮・高崎線) |
まずはE5系とE3系 |
北斗星は長旅へ |
スカイツリーとツリーの下を隠す「赤土小学校前」駅 |
田端に通じるその道は、常磐貨物線を陸橋で越える。越えた先の左手にちょっとした茂みがあり、それ以上調べることがなければ、ただ道灌山の植生とはまた違う?とか思う程度だが、この一角はそれでは済まない。あとで調べたら、荒川区西日暮里六丁目69番地に該当した。69とはまたよく割り振ったものだと思う。
写真は、その比較的近所の東京食品ターミナルの手前、6丁目66番地である。
この向きで右に進むと東北線の井堀ガードになり、その先が68番地・69番地となる |
区界は、地図で見てもわかりにくい |
この辺りからもうちょっと行くと、荒川区と北区の区界になる。だが、その境界に当たる道がごく一般的な生活道路のため、区を跨いだという実感が得にくかったりする。
六丁目までと聞くとそれほどでもない気もするが、町名の西日暮里はかなり広く、京成線の新三河島、常磐線の三河島を結んだ一帯の西日暮里一丁目については、今回紹介できていない。あとは常磐線の急カーブの辺りから東側、三河島と日暮里を結ぶ線までの西日暮里二丁目について言えば、そもそも足を踏み入れたことがない。そこまで拡げるとより多くの「!」「?」が控えているだろうから、一話では利かなくなるだろう。西日暮里とはそういう街である。
再び駅に戻る。今では三つとなった西日暮里駅を正しく区別し、それぞれの出入口にきちんと行き着けるかどうか、これは街として考えるべきテーマでもあると思う。JRの西日暮里駅前に来ると、その三つの出入口の標示がバラバラであることに気付かされる。この位置からは、JRはすぐにわかるにしても、東京メトロ千代田線は25m先、日暮里・舎人ライナーについては、それがライナーだとわかるようになっていない上、右上に170mといった態である。
これが問題の標示各種 |
JR駅構内も標示が複数 |
そこにいる人の視線を基準に、3社をひとまとめにしたわかりやすい案内が設置されることを願うばかりである。
これは千代田線の西日暮里に着いて、JRに乗り換えようと、乗換専用改札を通る際に実体験した話である。メトロの有効な切符があれば、切符挿入&Suica定期券タッチで出られる筈だが、これがすんなり行かない。切符を入れる動作とSuicaをタッチする動作を円滑にやるには、改札に入りかけたところで、と思う訳だが、これがNGで、何と改札機に対して正面に立った上で切符を入れ、タッチをし、という必要があった。改札のためを考えて、の行動がアダになった一件である。
それからそう日数が経たない頃、今度は精算した上で乗換専用を通る機会があった。通常であれば、精算機があって、そこで出てきた精算券とセットで通るか、乗り継ぎ対応の機械で以って精算し、スマートにSuicaオンリーで通るか、なのだが、当駅における精算は何と完全窓口制。こうなると現金オンリー?と思ってしまうが、Suica・PASMOでOKだったので、変な安堵を覚えることになる。手渡しの精算券を手に、今度は正面に身構え、無難に通り抜けることができた、というお話。
乗り換えで一難があるメトロの西日暮里駅。乗り換えがなく単に下車する場合でも、そもそもホームが地下で二階建てになっている構造上、何か大変そうな予感はある。地上から出入口を探すのもひと苦労。見つけて入っても、改札階のホームが代々木上原方面で、そこから一つ下がったホームが綾瀬方面という奇々怪々が待っている。正しい行先に乗れた時の感慨はひとしおだろう。
予め構内図を研究してから臨まないと苦労しそうな駅であることは確かだ。
当初、七不思議くらいで考えていた西日暮里(駅周辺)だったが、書いているうちに12になってしまった。前述の通り、西日暮里一丁目と二丁目が含まれていないため、本格的に西日暮里全域で「!」と「?」を探すともっととんでもないことになるものと予想される。行けないエリアではないので、いずれ…とは思うが、いつになることやら?!である。
と、最後に一つ、大きな不思議が残っていた。かの「出没!アド街ック天国」では「西日暮里」の題ではまだ放送がない!という件である。
日暮里は、[1997.8.23][2004.3.6][2010.7.3]、三河島は、[2010.2.6]、あとは「谷根千」の括りで、[2009.3.28]などがあるので、どこかで西日暮里駅周辺も掠めているとは思うが、筆者的にもこれだけ出てきているのだから、ズバリ「西日暮里」でやってほしいところ。ぜひ一丁目〜六丁目、隈なく出没してもらって、予備知識を提供してもらいたいものである。(それとも番組が取り上げる前に行きべきか...つくづく悩ましい街である。)
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