第187話 23区内のカーブ駅(2005.6.15⇒17)
JR福知山線の脱線事故以来、鉄道路線の急カーブに注目が集まっている。事故については、思うところが多々あるので、文末にコメントを別記するとして、まずは標題通り、カーブについて言及したいと思う。ただ、筆者としては線路のカーブよりも、前々から気になっていたプラットフォームのカーブの方が調査もしやすいし、考察もしやすいので、今回は特に「カーブ駅」を取り上げることにした。
気になっていた、というのも、筆者宅の最寄駅がカーブ駅であること、そしてそのカーブ駅を結構なスピードで快速列車が通過して行くのを常々見ていること、があっての話。4月25日の事故から想起されたのは、もしカーブ駅を通過中に同じように速度超過などで脱線することがあったら、どうなるのだろう?ということも一つ。駅がない場所でのカーブは多々あるので、それはそれで気を揉むことになるが、カーブに駅がある場合は限定的とは言え、また違った憂慮が生じる。カーブ駅を列車が通過する時、どれだけ身の危険を感じるか、これは実際に調べてみないとわからないものである。
乗車している側から調べてもよかったが、先頭車両から観察しないといけないため、万一のことがあるとイヤなのと、乗降時の足元の状況も合わせて調査したかったので、あくまでホームに立つ側から記録することにした。思いつく駅はいくつかあったので、それらを中心にしつつ、あとは地図を眺めながら、カーブ駅と思しき駅を推測して出かけてみた。(線路の曲がり具合などから、段々と見方がわかってくるから不思議なものである。)
[東武伊勢崎線]
何と言っても、浅草だろう。かつて起点・終点となっていた浅草は、今の業平橋駅(明治35年4月開業)だが、そこから隅田川を越えるところに新たに設けた駅が、現在の浅草駅(昭和6年5月開業)。無理に伸ばしたためか、川を越えるといきなり急カーブになり、そのカーブを保ったままホームになってしまうという特異な構造。筆者が曳舟から乗った上り普通列車は、奥が深い1番線に入ったため、車両全体が直線になってから扉が開いたが、カーブにかからないのは1番線だけ。2番線以降は、いずれも車両の一部がカーブ部分に差し掛かり、乗降時の足元が大変覚束ないことになっている。おそらくこの駅ほど、極端な例はそうそうないだろう。起点・終点となる駅だから当たり前ではあるが、ここを通過する列車はない。入線時も限りなく徐行(15km/hに制限)することになっているので、カーブによって、かえって安全が保たれていると言えなくもないが...
浅草駅へ入る手前(制限速度「15」を示す黄色い標識が見える) |
準急・特急・急行いずれも先頭車両はカーブにかかる |
2番線に停車中の準急列車は大きくカーブ |
2番線で最も間隙が大きいのはこの辺り(30cmはある!) |
同じく準急列車のカーブ(上にも下にも足もと注意の表示) |
特急や急行には、ドアとホームの間にブリッジが渡される |
扉が開いて気付いたが、次の業平橋も一部がカーブ。曳舟もよくよく見たら、足元注意と出ていた。3駅続けてカーブを有するケースも珍しい。ちなみに、曳舟から一つ挟んだ次の鐘ヶ淵もかなりのカーブ駅だし、北千住の次の小菅も(目測だが)カーブに当たる。鐘ヶ淵、小菅は通過列車も多いから、通過待ちの際は気を付けたいところだ。
[小田急線]
代々木八幡が代表格。代々木上原に千代田線が入る前までは、準急が停まったが、今は各駅しか停まらないので、通過列車がやたらと多い。ロマンスカーでも何でもかなり徐行して通り過ぎていくので、恐怖感はないが、車両がホームを擦りそうで、緊張感を覚える。通過時でもホームのカーブと車両の直線が形づくる細長い半円状の空間(下りホームの場合)が見て取れる。弧の中央と直線の中央の付近にドアが来ると、20cmは空く。各駅停車の乗降時は、車両の中央は避け、とにかく足元には注意せよ、ということか。
ドアとホームの間はかなり広めになるが、ホーム上に注意書きは特になく、黄色の斜線が描かれているのみ。車内のアナウンスも「一部広く空いている」という言い回しで、あまり強く喚起していない印象。実際は一部というよりは、どこから乗り降りしても注意が必要なカーブだと思うのだが。
新宿方面のカーブはこんな感じ |
特急がゆっくり通り過ぎる(下りホームの黄色の斜線が目立つ) |
車両の直線とホームの弧でちょっとした図形ができる |
[JR]
飯田橋が真っ先に思い浮かぶ。じっくり調べてみて気付いたが、上りホーム(秋葉原・千葉方面)の方が円弧が緩やかなので、ドアとホームの空隙はそれほどではなく、下りホーム(新宿・三鷹方面)がより厳しいカーブなため、空隙も広めになる、ということ。同じ足元注意でもちょっとした差が出るものである。(地図参照)
幸い、各駅専用のホームなので、ここを通過する列車はなく、安心。ただ、並行する中央線快速の線路も同じようにカーブしているので、仮に東京方面の列車が曲がりきれなかったりすると、尼崎の事故と同じような状況になる可能性はある。その時は、飯田橋のホームに... いや、物騒なので、あまり想定しないようにしよう。
秋葉原・千葉方面のカーブ |
新宿・三鷹方面のカーブ(やや広め) |
中央線快速もこのカーブを走る(制限速度は75→55km/h) |
山手線の内側の総武線区間は、地図を見て明らかなようにグネグネだが、カーブ駅は飯田橋くらいだろうとタカを括っていた。ところがお隣の市ヶ谷も、一部カーブになっていて、ビックリ。地図からカーブ駅か否かを目利きするには、それなりの熟度が必要なようだ。
山手線では、渋谷が筆頭だろう。乗降時の注意を促す車内外のアナウンスに聞き覚えのある人も多いはず。だが、アナウンスに反して、足元注意の表記は不備だったりする。乗降客が多いと足元の文字には目が行かないだろう、ということか。渋谷も通過列車はないので、大丈夫なのだが、乗り降りの際には本当に気を付けたい。ドアとホームの間に落っこちかけた女性を目撃したのは、確かここ渋谷駅だった。乗降が多いとふとしたスキにこうした事故も起きるが、人が多い分、救出される確率も高い。この女性も両腕を抱えられ、すぐに助け出されていたのを思い出す。
新宿・池袋方面のホーム(こっちは「足もと注意」と出ている) |
品川・東京方面のホーム(結構なカーブだが、「足もと注意」の表示が見当たらない) |
注意書きはないが、新宿駅も空隙がある |
渋谷ほどではないが、山手線 新宿駅ホームも一部カーブになっていた。いつも混雑しているので気に留めようがないのだが、じっくり見てみると思いがけず発見があるものである。
[京王]
近場では下高井戸が挙げられる。かつて同駅の近くに住んでいて、時折、利用していたが、あまり意識していなかった。よくよく見れば確かにちょっとしたカーブ駅である。乗り降りが多いので、注意の仕方も見事。何とホームにランプが埋設してあって、せわしく点滅している。いやはや。下高井戸は、通勤快速・急行・準特急・特急は停まらないから、カーブ通過時のリスクは高め。徐行はしているものの、安定したスピードを誇る京王線だけに少々心配である。
下りホームのランプ |
注意書きが上にも(列車がいない時は、ランプはOFF) |
ちなみに、本線新宿駅もカーブ部分があるようだが、機会を改めて調べてみることにする。(東武浅草ほどではないと思うが。)
[都営地下鉄]
新宿線は急行運転があるので、カーブ駅の通過状況が気になるところ。東大島を通過する際は、荒川鉄橋に差し掛かる(下り線)ために徐行するのだろう程度にしか思っていなかったが、カーブ駅であることも大きいようだ。ホームに降りてみて、曲がり具合がわかった。(ただし、足元注意は特になし。) 調査時は、あいにく急行運転時間ではなかったので、通過インパクトは体感できなかったが、猛スピードで通過する訳ではなさそうだ。
東大島駅 上りホーム |
下りホームを発車した時の様子(緩やかにカーブしているのがわかる) |
浜町もカーブ駅だが、急行に乗っていても、カーブの具合はわからない。急行が停まる馬喰横山と森下の両駅に挟まれた一駅なので、速度を上げる必要がないための徐行運転なんだなぁとしか考えていなかった。カーブを実感させない走り、というのは安全な証拠。カーブ駅かどうかは、降りて確かめてみないとわからないものである。
浅草線も地下駅を通過する空港快速特急が走っているが、浅草は全列車が停まることになっているため、間違えて通過してしまう、ということがない限り、心配無用。ただ、カーブ駅であることは事実なので、ドアとホームの間隔が広くなっている箇所での乗降は要注意。特に、重いスーツケースを持った空港利用客が当駅で乗降する際は、支障のない車両に誘導してほしいものだと思う。
浅草駅 下りホーム(この付近は直線なので注意書きはない) |
最後尾の方に来ると、「足下注意」の貼り紙が現れる |
ちなみにカーブが多い大江戸線では、カーブ駅と思われる駅(例:春日、飯田橋)でのカーブがなく、拍子抜けした。同線がコンパクト設計であることを再認識した次第。ただ、ホームを出る直後(またはホームに入る手前)では、いきなりカーブになってたりする。
今回は23区内で、とにかく目ぼしい駅を当たってみたが、他にも候補(推定)はいくつもある。私鉄では、
[西武] : 新井薬師前/沼袋/大泉学園
[東武] : 大山/下板橋/亀戸水神 (*伊勢崎線以外)
[東急] : 代官山/多摩川/三軒茶屋/用賀/五反田/荏原町/荏原中延/雪が谷大塚/千鳥町/池上
[京成] : 青砥/柴又
など、23区内に限ってもまだまだありそう。(カーブ駅を走る車両は絵になるようで、その筋の本などを見ると、どの駅が曲がっているか、調べもつくし。)
東京メトロは路線そのものが曲がりくねっているものが多いため、カーブ駅も相当数あると思われる。ただ、東京メトロで地下部分を通過する列車は、臨時行楽用だったり、まだ先だが千代田線をロマンスカーが走る程度なので、足元注意駅に留意すれば済む。私鉄駅と合わせ、「足元注意」に特化して再度調べてみようと思う。
スピード感や快走感は、鉄道の醍醐味であることは確かで、筆者もこれまで第41話、第109話などで、綴ってきた。速度志向だった点、まず反省しなければなるまい。ビハインド(遅れ)に厳しい(第121話)というのも度が過ぎると事故のもとであることも認識した。安全を加味したサービスを求めるのが客の本分。サービスする側が決めた時間に忠実であるかどうかを問うのではなく、無理のない時間設定をサービスを提供する側・受ける側でともに考えていく必要があると思い至った。
大阪出張時に飛行機を使っていた筆者(第174話)は、伊丹から尼崎まで、または東西線直通で大阪の中心部まで、といった乗り方を何度かしてきた。脱線してしまったのと同じ車両の快速列車に乗って、快速らしいスピードを実感していたのを思い出す。塚口を過ぎたあたりからグッと減速し、カーブに入り、程なく尼崎に着いた、というのも実体験があるので、何とも複雑な気持ちで事故報道を眺めていた。
ただ、問題の所在はどこにあるのか、筆者なりに考えてみると、マスコミがあまり報じない部分がまだまだあって、真相や背景をもっと明らかにする必要があるように思えてならないのである。特に気になるのは以下の2点。
1.事故当日に事態を重く受け止められなかったJR社員の心境
想像力や当事者意識の欠如、という側面は否めない。だが、追い詰められて、逃げたくなる心理が働いただけの社員もいるのでは、と思う。自覚がどうの、という以上に、無意識に怖れが高じたのだと仮定すると、責め立てられては、逆効果になり得る。怖れを自覚し、逃げない姿勢を持たせるためにも、もっと本心を語りやすくする報道姿勢があってもよいと思う。
そのためには、責任よりも原因の追究に力点を置く発想を社会的コンセンサスにしないと難しいかも知れない。加えて、加害者と被害者を直に相対させないための仲裁機関の介在も、今後の再発防止という観点からは欠かせないものと思われる。
2.過密ダイヤの根源
列車を急がせたのは、直接的には鉄道事業者だが、間接的には乗客・利用者、というのは一理ある。JR西日本が誇る「アーバンネットワーク」をよしとしていたのはお客。ニーズに応えようとする余りの惨事だったとすると、原因は複雑化する。
スピード社会を是とする風潮は、駆け込み乗車の元になる。今後、同じような事故を起こさないようにするには、スピードを優先しない社会的精神性の涵養も必須だろう。駆け込み乗車が全国的になくならない限り、亡くなった方々やご遺族は報われないと思う。
それにしても、アーバンネットワーク構想は、JRが独自で考案したものなのだろうか。スピード優先経営を促した何者かが存在するのでは、と察する。いわゆるコンサル、シンクタンク、総研の類である。
...書中にて恐縮だが、ここにご冥福をお祈りしつつ。 |
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