第282話 エコポイント小論(2009.6.1)
話題のエコポイントがスタートして2週間。家電量販店では今!と実況に近いレベルで根掘り葉掘りやりたいところだが、今回は制度が始まる前と後の話に限って、お伝えしようと思う。まずは5月23日付で日本インターネット新聞に載せてもらった記事(編集前原文)からご紹介する。
2009年度の補正予算の一つの目玉として、省エネ家電(エアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送対応テレビ)への買い換えを促すエコポイント制度が、見切り発車的にスタートした。温暖化防止が主な目的と思いきや、景気対策の方に重きがおかれているようで、関係省庁(環境省・経済産業省・総務省)の話では、「経済危機対策として速やかに」行われる必要があったため、まだ決まっていない事柄が多い中で始まったとされる。
政府が「エコポイント」の名を使ったことで、すっかり公的な制度として広まってしまった観があるが、同じ名称の仕組みは、民間企業などでの先行例がいくつかあるため、消費者によっては混乱をきたす可能性がある。類似した名称として「エコ・アクション・ポイント」(環境省を中心とした取り組み)というのもあり、環境省ではホームページでわざわざ両者は別物であることを注記している。(追記:「日経トレンディ」のこの記事では、明らかに誤解されていることがわかる。誤解される方もする方も、という感じではあるが。) 名称に関する議論も不十分なままだったことが窺えるが、始まってしまえばとやかく言うものでもないようで、5月15日の初日、家電品を扱う店はどこも賑わいを見せ、思惑通り景気付けにはとりあえずなったようだ。
エコポイントで決まっていることは以下の通り。
・省エネ基準(統一省エネラベル4つ星以上)を満たす家電(エアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送対応テレビ)を購入すると、主にサイズ別に一定のポイントが付与される。(表1参照)
・対象商品であればどこで購入してもどんな価格でも一律のポイントが得られる。
・必要な書類(領収書、保証書、下取り時は家電リサイクル券の控え)をしっかり保管しておかないとポイントの申請ができない。
・2009年5月15日から2010年3月末日までに購入した分が対象となる。
(表1)対象3品目のエコポイント一覧(大きめサイズを選んでお得!と言うけれど…)
逆に決まっていないことの主なものは、
・エコポイント制度の事務作業を請け負う業者
・申請に必要な書類の送り方等、購入者側がすべきこと
・環境配慮型製品や特定事業者の商品券など、ポイントと交換できるものについての方向性は決まっているが、その交換方法や時期など詳細
が挙げられる。
エコポイントがスタートするのを待っていた客が続々と来店し、品定めや問合せをするも、販売店側の準備がままならなかったり、詳細が不明確な状態で店員が説明に追われる場面は、テレビ報道でも多く見受けたが、現場でも確かに同じことが言えた。
5月15日の午前中、家電量販店が集まるエリアの一つ、新宿西口で二つの大型店舗を見て回ったが、エアコン、冷蔵庫、テレビの各売場は客が途絶えることはなく、常に誰かしらが商品を見、店員と会話し、早い人は会計へ、という状態だった。パソコンや携帯電話といったいわゆる売れ筋の売場の出足が相対的に鈍い印象を受ける程、客の流れに明らかな変化が見られたのである。
見物した二つの競合量販店は、独自のポイントサービスを古くから扱っていた「老舗」である。今回のエコポイントが始まることで、ポイントが乱立することは自明だった訳だが、これをむしろ逆手にとり、「さらにポイント上乗せ」といった触れ込みで強烈にアピールしているところはさすがだと思った。当然のことながら製品本体にはどれが値札かわからない程、あらゆるラベルや表示が貼り付けられていて、総合面でどれが最も負担が少ない(環境面+家計面)かをその場で見極めるのは難しい。インターネットで簡単に比較できる時代ではあるが、厳密に検討するのであれば、ひたすらメモをとってから自宅で表計算ソフトを使って割り出して、お値打ち品を探し出すという手間を要する。試しにめぼしい製品について調べてみたところ、表2のような結果となった。(あくまで一例)
(表2)ほぼ同じタイプで比較したところ、この通り(どれがおトクかわかりますか?)
エコポイントが始まれば、店側で努力しなくてもお値打ち感が出せることになる。価格操作もあるのでは?とにらみ、実は前日の5月14日にも同じ製品で調べていたのだが、結果、二つの量販店間でしっかり見極めれば、前日も当日も同じ最安値で購入できることが概ねわかった。5月15日以降は、純粋にエコポイント分が追加的におトクになる、ということだ。(店頭価格のみの比較では一部に便乗値上げは見られたが、逆に値下げするケースも多かった。)
週末セールがかかってさらにおトクになる可能性はあるが、ひとまず価格面での問題はなさそうである。だが、問題・課題と考えられることはまだまだある。
・しっかり見極めてうまく利用できる人、買い替え需要のある人など特定層にメリットがある仕掛けであること
・本体価格以外の料金(リサイクル料金、年間の電気代など)を含めたトータルコストの表示に不透明感が残ること(ネットでも店頭でも総合的な価格を見定めるのは時間がかかる)
・そもそも「エコ=省エネ性」と限定的な見方に基づく制度であること(省エネ以外の環境配慮側面が乏しく、既存のものをいかに長持ちさせるか、逆に使わずに済ませるか、といった抑制的な視点も感じられない)
・仮に不要不急のものまで購入することになれば、逆にCO2を増やしかねない、という見方が考えられること
・家電品のリサイクル率が高まっているとはいえ、買い替えによって生じる廃家電品の絶対量が増えるため、環境負荷が高まるおそれがあること(リサイクル率100%でない以上、グレーゾーンの扱いのものは存在し、その廃品が思わぬ影響を与えることもある) 特に旧型のブラウン管テレビが大量に排出される見込みは大。
・補正予算で計上している額(3000億円)以上の申請があった場合の対応が不明なこと(早く買わないと損、という混乱を招く可能性も)
・省エネ基準への適合性はメーカーの自主判断に基づく。仮に虚偽があった場合はエコポイントが無効になる可能性があるが、そうした非常時の対応が不明なこと
など
エコポイントを加味した情報提供サービスがもてはやされることになりそうだが、まずは自身で必要性の有無を検討し、買い替え前と後でどっちが負荷(環境+家計)が減るかを考え、現物とそこに表示された価格等を実際に足を運んで確かめ(見積書をもらうのも有効)、必要に応じて表計算し、といった手順をしっかり踏むことが要だろう。
と記事ではとりあえずここまで。以下、実際に調べに行った際のエピソード、価格面ではなく省エネ性そのものについての経年比較など、モノローグ的アプローチ?!で余禄を綴ることにする。
対象製品がハッキリしたところで、「ではどう調べるか」が現実的な問題。おなじみの量販店のネット通販のページを見るのがよかろうと思いつき、ヨドバシカメラを見てみたらご丁寧に全品目が載っていてさすがに辟易。方やビックカメラは、エアコン9件、冷蔵庫9件、地デジテレビ12件と例示的に出ていて好感触。これをプリントアウトして、店頭で調べることにした次第である。
ネットで扱っていれば当然店頭でも、というのは実は早合点。案外なかったりするのである。たかだか計30件とタカを括っていたのだが、ないものを探し出そうとする労苦に加え、ネット上の分類と売場での陳列の相違、表示の読みにくさ、型番の判別のしにくさ("-"や塗色コードがあったりなかったり)等々、売場で探し当てるのがこんなに困難なものとは!というのを思い知る結果となった。
冷蔵庫は点数が限られているのでまだいい。エアコンはエコポイントの分類通り(冷房能力別)にはなっていないものの部屋の広さ(畳数)と価格帯との相関がわかれば探しようがある。最も悩まされたのはテレビ、であった。ヨドバシもビックも、サイズ別とメーカー別と両方の分け方がごっちゃになっていて、例えばシャープ→32型で調べていくと見つからず、32型→シャープと探すと出てきたり、その逆だったり、とにかく統一感がなくて困った。手元資料に載っているのは12種類のテレビ。メーカーはご親切に3社に絞ってあるのに、その社のコーナーに行っても全部見つからないのだ。
5月14日はそんなこんなで店1つにつき小一時間(計2時間弱)。翌日のエコポイント初日は、前日に調べていたにも関わらずやはり見つけるのに手間取り、計1時間半かかってしまった。筆者の場合は購入者としての調査ではないのでこれでも気楽なものだが、実際に買おうとする人にとっては一大事。対象品からどう絞っていくか、価格は妥当か、どの店がよりおトクか、そして何より機能・デザイン・設置条件・トータルコストなどなど、より念入りな下調べが必要になるだろう。省エネ家電を探すのに思わぬ労を要することになる訳で、これは即ち「客本人にとっては省エネでも何でもない」。今回の「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業の実施」の落とし穴はこの辺にもある。(-_-)
エコポイントの初日に表示や掲示をバタバタと変える店も多かったはずだが、新宿西口の両店については、前日にすでにエコポイントシフトになっていたので、当日は悠々としたものだった。ただし、価格をしっかり追ってみたら、やはり多少の変動は生じていて、安くなったり高くなったりいろいろ。(詳しくはこのEXCELシートでご確認の程を。) 貼り替えるところは貼り替えていた、という訳だ。(それでも手や目が行き届かなかった面があったようで、「同じ機種なのに価格が違う?」というのがごく一部に見られた。)
前日に調べておいた価格で胸算用していたのに、当日になったら違っていた、というお客もいただろう。エコポイントで還元される分、実質値下げ!とは言っても、やはり便乗値上げ的な本体価格(またはポイント率)の操作はちょっとどうかと思う。(何故か「プレミアムモルツ」のケースがおまけで付いてくる、という「逆?便乗」対象品もあった。テレビを見ながら一杯、ということか。)
「急げ!!」と言われてもぐっとこらえてじっくりと... |
ちなみにヤマダ電機ではこんな感じ。Wを使うと他店と同じになってしまうので、あえて使っていないようだ。 |
この2日間のビフォーアフター調査は、主に価格面での話。本来調べるべきは、「買い替えによって本当に省エネ・省コストになるか」である。「省エネ性能カタログ」を引っ張り出して新旧比較をすることも考えたが、各店からもらってきたチラシやカタログの中から唯一、この貴重な情報を発見し、これを活用することにした。その情報サイトとは「省エネ製品買換ナビゲーション『しんきゅうさん』」である。(この情報が出ていたのが、「ヨドバシカメラ 2009最新 エアコンカタログ」のみ、というのがいかにも...政府の取り組みらしい一面、というか、「しんきゅうさん」そのものの案内を目にすることがないのはどうしてか、と言いたくもなる。)
先の30件リストには消費電力量と年間電気代を入れる欄も設けて部分的に調べていたのだが、販売店情報、メーカー情報、省エネ性能カタログの3つを照合していると、特に電気代の表記にバラつきがあり、出典を統一できないことから一覧化するのを断念していた。
例:シャープの32V型「LC-32DX1」では次の4つを比較。(消費電力(W)と年間消費電力量(kW/年)とが併記されている場合はまだしも、そうでないとあらぬ誤解を招きそうである。) → ヨドバシカメラ/ビックカメラ/シャープ/省エネ性能カタログ
で、「しんきゅうさん」ではどうだったか、と言うと?
129kWで2,838円と出た。省エネ性能カタログよりも確度は良さそうである。
かつて筆者がグリーン購入ネットワークに勤めていた頃に作っていたデータブックの一つにこの「テレビ編」がある。新旧比較する上でとりあえず東芝の21型を選び、今の機種とサイズ別にシミュレーションしてみた。結果は画面の通りである。
22V型との比較 |
40V型との比較 |
42V型との比較 |
つまりほぼ同じ大きさの22型を選んだ場合は明らかに省エネになるが、「省エネが進んだだろうから大型のを選んでも大丈夫」などと早計すると「こんなはずじゃ...」となることがわかる。しかも42V型よりも40V型の方が高くつく、というのも意想外。より入念に調べ上げないと、「グリーン家電で買い替え損!」を被ることになる。家計が赤字になったらグリーンでは済まない。「レッド家電」である。
エアコンでの比較(東芝製 2.2kW) |
冷蔵庫での比較(同じ三菱製で「前から冷やそ MR-Y47T」(470ℓ)を調べたら年間消費電力量は470kWhだった。ここでの1999年の年間消費電力量は平均値からとったものかも知れないが、かなり水増ししている可能性がある。) |
テレビでの比較(シャープ製21型を42V型に買い換えた場合・・・明らかに省エネに逆行!) |
とまぁ、こういうことが発覚してしまうため、「しんきゅうさん」のPR、控えられているのかも?! (^^;
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